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詩に出会う(3)   


冬の朝

         平田詩織


(泣いているの?)

もうだれのことも信じない
強く放つ横顔は
うすくとがって、きれいだ
光に殴られたように放心して
いつまでもみとれていたいほどの

真新しい暦のうえに
目覚めて見る夢
ひとは生まれたばかりで
まだ立つこともままならないのに
手を取りあって踊ろうとする
足の下の暗い域から
いっせいに湧きあがる耳を濡らす
潰えた身体に降るいたわりの雨音

青白い冬の路上に伏しても
まなざしを引き剥がすことはできない
脱力するばかりの空を抱きとめる
つめたい腕に思いを残す
ここにある
やわらかな不在を信じてほしい
目の奥に宿るもののために踊る手足を

(2017年1月11日(水)朝日新聞夕刊「あるきだす言葉たち」に掲載)



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ひと言
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by hannah5 | 2017-02-04 21:01 | 詩に出会う | Comments(0)

詩に出会う(2) 映画 『パプーシャの黒い瞳』 より   


私の大地よ、私はあなたの娘


私の大地よ、森の大地よ、
私はあなたの娘。
森が歌い、大地がうるわしく歌う。
川と私はその歌声から、
一篇のジプシーの歌を作る。

私は山に行こう、
高い山に、
花で作られた
美しく華やかなスカートをはいて、
そしてありったけの力で叫ぼう――
ポーランドの大地よ、*1 赤と白の大地よ!
大地よ、誰もあなたを連れ去らない、
黒い森と善き心と私の大地よ。
私はあなたの娘。
大地よ、私はあなたを信じる、
あなたの上に育ち生きるもの
すべてを私は愛している。

大地よ、まるで金でできているように
輝きによって空を打つ大地よ、
黒い森と私の大地よ、
万物と私の母よ、
美と富の母よ!
私の黒い心臓は
あなたの歌に焦がれる。

大地よ、刈り取られたあなたの草原が
陽を浴びて金色になる、
大地よ、そこでは雷鳴が
大風と戦う、
私の心の中の歌のように。
そこでは金槌が石を打ち
大きな火が熾(おこ)る。

大地よ、かわいい大地よ!
夜ごと高みの大いなる星々が
あなたを見つめて
ジプシー娘のようにしゃべりあう。

大地よ、本当にごめんなさい、
私の歌がつたなくて、
*2 ジプシーのしるしがたくさんあって。
私の体をあなたのうちに横たえて、
すべてが終わって死ぬ時に、どうか私を受け入れて!

私は山に行こう、
高い山に、
ありったけの力で叫ぼう――
白と赤のスカートをはいて、
スカートについてのジプシーの歌を歌おう。
死をいとわないで、私の黒い心臓よ、
私の大地のため、私の国のためになら!

私の大地よ、黒い森の大地よ、
あなたの上にあるものすべてを、
あなたはこの世に生み出した、
美しくすばらしいあなたは、
陽の光を見つめている、
待ちこがれる黒い許嫁さながらに――。

金色の太陽はハンサムな婚約者のように
激しく恋をした、大地に、
黒い肉体の美しさに。
太陽と大地、互いに抱き合い絡み合ってキスをして、
大地は遠くない瞬間を待つ、
母となるために。

大地よ、あなたは光を得て走る、
世界のかなたへ光を届ける。
あなたの作りしもの――それは大いなる作品。
私の歌はあなたに焦がれ
愛する人を想う心のように戻ってくる。

黒い森の大地よ、
私はあなたの上で育った、愛する大地よ、
あなたの苔の上で生まれた。
ありとあらゆる微小な生き物が――
めいめいにかじり、刺した、
私の若い体を。
大地よ、あなたは涙と歌で
私を眠りにつかせてくれた、
大地よ、あなたは私を悪と善の中へ
変化の中へ投げ入れた!
大地よ、私はあなたを強く信じる、
あなたのためなら死んでもいい。
誰も私からあなたを奪えず、
私は誰にもあなたを渡さない。
(1952年作)

*1 赤と白 ポーランドの国旗の色
*2 ジプシーのしるし ジプシーが自然の中に残す目印をさす。藁の束、結び合わせた枝、石や骨を積んだもの、木の幹に刻んだ傷、地面に描いた絵などで、分かれ道や野営地の近くに残し、他の集団に旅路を知らせたり自分たちの居場所を伝えたりした。




(コンサートホールでソプラノで歌われるパプーシャの詩で、題名はない)

いつだって飢えて
いつだって貧しくて
旅する道は、悲しみに満ちている
とがった石ころが
はだしの足を刺す
弾が飛び交い
耳元を銃声がかすめる
すべてのジプシーよ
私のもとへおいで
走っておいで
大きな焚き火が輝く森へ
すべてのものに
陽の光が降り注ぐ森へ
そして私の歌を歌おう
あらゆる場所から
ジプシーが集ってくる
私の言葉を聴き
私の言葉にこたえるために

(『パプーシャ その詩の世界』より)


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ひと言
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by hannah5 | 2015-04-11 18:19 | 詩に出会う | Comments(0)

詩に出会う(1) 映画 『風に立つライオン』 より   


風に立つライオン


突然の手紙には驚いたけど嬉しかった
何より君が僕を怨んでいなかったということが
これから此処で過ごす僕の毎日の大切な
よりどころになります ありがとう ありがとう

ナイロビで迎える三度目の四月が来て今更
千鳥ヶ淵で昔君と見た夜桜が恋しくて
故郷ではなく東京の桜が恋しいということが
自分でもおかしい位です おかしい位です

三年の間あちらこちらを廻り
その感動を君と分けたいと思ったことが沢山ありました

ビクトリア湖の朝焼け 100万羽のフラミンゴが
一斉に翔び発つ時 暗くなる空や
キリマンジャロの白い雪 草原の象のシルエット
何より僕の患者たちの 瞳の美しさ

この偉大な自然の中で病いと向かい合えば
神さまについて ヒトについて 考えるものですね
やはり僕たちの国は残念だけれど何か
大切な処で道を間違えたようですね

去年のクリスマスは国境近くの村で過ごしました
こんな処にもサンタクロースはやって来ます 去年は僕でした
闇の中ではじける彼等の祈りと激しいリズム
南十字星 満天の星 そして天の川

診療所に集まる人々は病気だけれど
少なくとも心は僕より健康なのですよ
僕はやはり来てよかったと思っています
辛くないと言えば嘘になるけど しあわせです

あなたや日本を捨てた訳ではなく
僕は「現在(いま)」を生きることに思い上がりたくないのです

空を切り裂いて落下する滝のように
僕はよどみない生命(いのち)を生きたい
キリマンジャロの白い雪 それを支える紺碧の空
僕は風に向かって立つライオンでありたい

くれぐれも皆さんによろしく伝えてください
最后になりましたが あなたの幸福(しあわせ)を
心から遠くから いつも祈っています

おめでとう さようなら

(さだまさし作詞作曲「風に立つライオン」)

ひと言
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by hannah5 | 2015-03-21 18:44 | 詩に出会う | Comments(0)