<   2006年 05月 ( 30 )   > この月の画像一覧   

隙間の形   


隙間に住んでいるものたちが
街の中で生きている

猫は人間が残した合い間に
躰をするりとすべり込ませる
間違えてしまうことなど
思いも寄らない

犬はパズルを壊しても平気
そのまま歩いて行けば
通過できると思っている
だからよく叱られる

猫は器用だから
叱られることなんてあり得ない

カラスは案外人間を知っていて
面と向かって咳をする
堂々とやって来て
ビー玉のような目で覗き込む

ゴキブリは人間が嫌い
慌てふためいて逃げたって
いつかつかまる

人間はスキだらけだから
空いた所を埋めてくれる
ものが必要だ
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by hannah5 | 2006-05-30 23:44 | 作品(2004-2008) | Comments(6)

シャットアウト   


メールの向こうに漂ういくつもの感情が
心の隅々にまで落ちていき
いつのまにか住みついていた
振り払ってもこびりついたままの感情は
相反する矛盾を投げかけながら
あらゆる声を発し
神経質な顔をして
蒼白く笑う

私はそれらを消した
別れを告げるように
断固として
無情にも

静かに空間が広がり始めた
時間という混沌の思惑が
騒音から逃れ始めた
記憶が次第によみがえり始める
早春の空気のような淡々とした期待
空気の中を歩いて行くことが
絡まずに生きていける唯一
その先にある形に
まっすぐ到達する
とでもいうように
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by hannah5 | 2006-05-29 22:50 | 作品(2004-2008) | Comments(5)

私の好きな詩・言葉(74) 「とうさんの畑」 (島 秀生)   


秋草がいちだんと伸びて
もう見る影もありませんね。

とうさん あなたが元気な時
ここは半分を菊づくり
半分を家で食べる分くらいの
さまざまな野菜を育てていた所です。
今ごろになると
出品用の菊の大鉢
転びそうに長い菊の懸崖で一杯でした。
とうさん あなたがこの畑で倒れてから
もう4年が経ちます。
今の医学でも閉じた脳細胞まで
よみがえらせることはできない。
あなたにあるのは内蔵を動かすだけの脳と
寝たり起きたりするだけの眼
姿勢をかえた時の驚く顔
咳をする時の苦しい表情だけです。
とうさん いま瞳にうつっているのが
私の顔だとわかっていますか。
何も憶えていない識別しない学習しない
人間の尊厳に必要な
何の意志も残っていません。
この状態で4年
もう脳組織は死んでしまっても還ってくることはありません。
とうさん あなたは体が丈夫で
腕っぷしが強くて
隠居して畑仕事をするようになってからさえ
私は腕相撲であなたを負かすことができなかった。
とうとう一回も勝てないままです。
今も体は強くて丈夫で
食事用の腹のチューブ穴と
痰とり用の胸の穴があいていること以外
健康なものです。
うんちをかえる時や
体を拭く時なんか
体が重くて大変です。
姿勢をかえようとする意志がないから
なんにも協力してくれない。
こっちは体重そのまんまを
かついで上げなきゃならないから大変です。
喜びの表情もないからつまらないけど
でも半身不随で意識があって
動く片手で物を投げつけてきて暴れたり
死にたい死にたいと言って付き添いを泣かせたりしないだけ
とうさんはまだましかもしれませんね。

とうさん 若い時
よくかあさんを泣かせましたね。
浮気ばかりして
かあさんと会うと喧嘩ばかり
暴力までふるって
私の小学生の時の記憶って
かあさんが泣いているうしろ姿ばかりです。
いい父じゃなかった。
いい夫婦じゃなかった。
とうさんとかあさんが本当に仲良くなったの
とうさんが年老いてからです。
浮気する元気もなくなってからです。
畑に出るようになってからは
休憩にかあさんがお茶を持って現われるのを
本当に楽しみにして汗を流していましたね。
私がとうさんをやっと好きになれたの
あの頃です。

私が浮気しないの
とうさんのおかげです。反面教師ってやつですか。
かあさんの泣く姿見て育ってきた私は
いえ私が大学生の頃だって
コンサートでこころ沸いた夜も
演劇見て感動して帰った夜も
家に帰るととうさんとかあさんが喧嘩してた。
楽しい心も夢も
家に帰ると吹っ飛びましたよ。
哀しかった。
そんな私が妻に同じこと
できるわけがない。
心ときめく人が現われることもあるけれど
私にはときめいてそこまでで終わりです。
とうさん あなたからもらった
一番のプレゼントです。
うちの子供たち バカで身勝手だけど
その苦労だけはさせていません。

とうさんの畑。
秋の夕陽。
ここで見た時のとうさんは好きでした。


(『生きてきた人よ』より)

解説
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by hannah5 | 2006-05-28 23:39 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(2)

雨の日に思うこと   


「自分が詩を書いていることを詩にするのは
楽屋オチみたいで、好きではないんです
できれば他のテーマで
この情熱を感じさせて欲しかったです」
と、島さんは言う
そうだなあ、と思う
そういえば、どのテーマも
もうひとつ食い込みが足りないかもしれない
ゆっくり時間を割いてあたためていない
どの出来事も
一口かじっては次へと急いでいる
まるで書くことだけが目的みたいに

まわりを見回してみた
心が響いているだろうか
心がつかまれているだろうか
口あたりのよさを楽しんでいるだけなのではないか
都会の孤独と無関心というテーマでさえ
詩にするための道具にしていないだろうか

それで思うのだが
手のひらでぎゅっと握りしめることが
少ないかもしれない
きょうは雨が降っている
人々は整然と歩いている
思いが道に佇んでいる
季節が流れる
風のように
私の心はそれらを愛してやまないだろうか
それらを抱きしめているだろうか

私の心に映るそれらの中へ
共鳴する心を持っていきたい
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by hannah5 | 2006-05-27 22:47 | 作品(2004-2008) | Comments(4)

歩くよ   


ぎりぎりと つきつめて
ばちんとはじける
思考の回路
いやになるくらい考えて
心を寒がらせ
濁り涙をこぼしたあとは
ふん
なんだかばかばかしくなった

ちっぽけな心を踏んづけて
ぽかぽか歩く
すかんと抜けた
空の下
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by hannah5 | 2006-05-25 23:40 | 作品(2004-2008) | Comments(10)

雨に濡れた日   


激しく降り出した雨のただ中に
流れていかない思いが
閉じ込められていた
悲しく思うことと
懐かしく思うことを許されない出来事が
雨の中にじっと坐っている

きのうは泣いたけれど
今朝は爽やかな五月の風が吹いていた
あの束の間の晴れやかな朝は
今は雨の向こうに置かれたままだ

ビニールのひさしに溜まっていた水が
耐えかねて
重みを一気に落とし始めた
それは始まりと終わりのない
五分おきの律儀な儀式だ

水は行き先も告げず
別れの言葉も残さず
呟くように消えていった
道端にできた水溜りが
ため息をついている

雨は閉じ込めていた思いを見つめていた
かすかな安堵が広がっている
きっとこんな関係は
いつまでも続いていくのだろう

雨といういとしさが濡れている
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by hannah5 | 2006-05-24 23:06 | 作品(2004-2008) | Comments(0)

言葉に出逢えるように   


詩を書くっていいものです
いろとりどりの言葉を紡いでは
詩という一枚の織物に仕上げてゆくのは
私がもっとも静かな気持ちになれる時です

時々、近寄ったり遠く離れたりしながら
織り具合を調べてみます

何種類かの言葉を織り込んでみると
ひとつの言葉の時には見えなかった色彩が
他の言葉たちと重なり合い
微妙な陰影をかもし出してきます

流れるように言葉を織ってきました
走るように言葉を紡いできました
言葉が落ちてくるのを待っていたことがあります
言葉を拾いにでかけたこともあります


いろいろな詩に出逢いました
美しい絹の手触りのような詩
ザックリと削った彫刻のような詩
銀の月のような詩
優しい子守唄のような詩

魂が歓びに震えるようでした
心が深く叫ぶようでした
思いが波に呑まれるようでした

静かな朝に
一杯のコーヒーがおいしいでしょう?
森の中でゆっくりと目覚めるようです
それらの詩は丁寧に大切に綴られていました


私の言葉が走っていかないように
まだ出逢ったことのない言葉に出逢えるように
ゆっくりと寝かせながら
織っていこうと思います

More
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by hannah5 | 2006-05-23 23:51 | 作品(2004-2008) | Comments(10)

夜がせつない   


私はどこか乗り遅れている
同じ方向に向かって走っている
人々の電車に

とっくに行ってしまった電車を
ゆっくり追い始めて
追いつかないのはわかっていたが

いつか聴いたことのある電車の
ゴトンゴトンを思い出しながら
このレールを歩いている

きょうは涙が流れた
いつまでたっても
追いつかないから

涙がぽろぽろ流れて
それでようやくあきらめた
追いつけない電車に乗るのは

夜がせつない
ということを
知った日
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by hannah5 | 2006-05-22 22:14 | 作品(2004-2008) | Comments(10)

置いてきぼり   


書くことが乗らない
今日は

ひと言
ふた言
形を作ってみたが
その間に
どんどん違うことを考え
気がついたら
心が勝手に孤独になっている

言葉を置いてきぼりにしてしまったよ
今日という日は
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by hannah5 | 2006-05-22 22:12 | 作品(2004-2008) | Comments(2)

私の好きな詩・言葉(73) 「朝の図書館」 (雨音さん)   


人影まばらな
朝の図書館

本の匂い
斜めに入ってくる
朝の光

私の心は
一歩踏み出すごとに
静まっていく

読み終えた本を
カウンターに戻すと
本を入れてきた
大きな布の袋は
空っぽになる

ぶらぶらと
棚の間を歩きながら
目に留まった
本を抜き出して
ぱらぱらとめくる

さらりと読み流した文字が
教えてくれる
本の風合いを感じながら
一冊
また一冊
腕に抱えて
本を選んでいく

本のことだけを
考えている
そんな時間

空っぽだった
大きな袋が
またいっぱいになって
ずっしりと重く

ふと思う

こんな風に
続いていくのかもしれないと

失ったものを
元に戻して
この心を同じ形に
修復することは
決してできないとしても

こうして
何かを探して
埋めようとせずには
いられない
手探りの
ただの勘だけで

それでも
そうして埋め続けていたら
空洞になってしまうことはない
涙さえもなくなることなんて
きっとないから

大事に大事に抱える
私自身の
そんな想いを

そして
肩に重みを感じながら
私は歩き出す

少しだけ
歩みを緩めて

空を見上げながら


( 『ネットの中の詩人たち 4』 の中から)

解説
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by hannah5 | 2006-05-21 01:17 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(10)