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私の好きな詩・言葉(85) 『ジェリービーンズの片想い』 から   (秋元 康)   


2月14日の二人

「たかがチョコレートを一枚
贈るくらいで、
そんなことしなくたっていいのに・・・・・」

と言ったら、
頭をポカリと殴られてしまった。
思い込みの激しい君は、7年前に
初めて僕にくれたチョコレートを買った
店まで、チョコレートを買いに行くのが
恒例になってしまった。

そして、
僕は、免許をもっていない君を助手席に乗せて、
渋滞の中、2時間もかけて、
H市のなんでもないお菓子屋さんに、
自分のための、なんでもない普通のチョ
コレートを買いに行くのを付き合わされ
るわけである。


クラスメート

初恋の人に偶然、10年ぶりに会った。
僕は、いろいろな想いがまざってしまっ
てあまり話ができなかった。
それなのに、彼女は、本当になつかしそ
うにいろいろな話をする。
そりゃそうだ。
僕にとって彼女は初恋の人でも
彼女にとって僕はただのクラスメート。
だいいち、
彼女が僕の初恋の人だなんてことを、彼
女は知らない。


勘のいい女

僕は、時々、考えることがある。
もし、君ではなくて、
3年前に別れた彼女と今でも
つきあっていたら・・・・・。
それはそれで、楽しい想像なのに、
ふと君を見ると、
こっちを向いて、プイと拗ねた態をした。
これだから、勘のいい女は疲れる。


留守番電話にイーグルス

本当につまらないことで
彼女を怒らせてしまった。
電話をかけてもかけても
留守番電話が応えるだけ・・・・・。
仕方なく、僕は、そのたびに、
「ピーッ」という発信音のあとに
彼女の好きな「ホテルカリフォルニア」
を少しずつ流した。
そして、
一週間たって、
彼女の留守番電話に「ホテルカリフォル
ニア」が完奏した頃、
「馬鹿!」という声が聞こえてきた。


僕が風邪をひいた日

君が「元気?」と聞くから、
僕は「元気じゃない」と答えた。
肩と顎に挟んだ電話の送話口に向かって
おおげさなくらい、咳き込んでみせた。
「つらそうね」
「つらいさ、
くしゃみは止まらないし、
頭だって、割れそうに痛いし・・・・・」
「熱は?」
「40度C以上あるかもしれない」
「何か食べてる?」
「何も食べたくないんだ」
「心配ね」
「心配さ」
「お見舞いに行ってあげようか?」
「その方がいいかもしれない」
小さいころ、
僕は、親に言われて、熱を測るたび
体温計を蒲団に擦ったり、
息を吹きかけたりして
少しでも、目盛りが上がるようにした。
その癖が今でも抜けないのか、
風邪をひいたかなと思っただけで、
恋の熱を上げてみたくなる。


(『ジェリービーンズの片想い』より)

たまには息抜きを。
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by hannah5 | 2006-09-30 23:52 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(8)

雨模様   


すぶ濡れになりたい季節が
次々とやってくる

私は後ろも見ずに
雨の中へ飛び出していく

冷たい空気がやって来る
かき分け
かき分け

あったかい空気がやって来る
かき分け
かき分け

雨は寂しいから
雨は嬉しいから
雨は哀しいから
雨は面白いから

雨の中をざくざく歩く

雨が染み込んでいく
皮膚の中
骨の中
血管の中

昨日と同じ顔の下で
今日の雨が降り続く

雨の中をざくざく歩く

雨の中をひたすら歩く
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by hannah5 | 2006-09-29 18:24 | 作品(2004-2008) | Comments(6)

一人分のほら穴   


やっぱり
私はここに帰ってきた
一人分やっと入れるくらいの小さなほら穴

外界では
。 やら 、 がせわしなく往来し
切り刻んだり
丸めたり
波形に削ったり
引っぱってみたり
あられもない作業が続いている

私はそれらの中でだいぶ揺られて
船酔いしてしまったが
結局、この小さなほら穴の中で
浮かんでくる言葉の玉子たちを一つずつ掬っては
並べて見ている方が生きている気がする

異物を飲み込んだみたいで
生きた心地がしなかった

この穴の中にいると
ゆっくりと
確実に
心音が聞こえてくる
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by hannah5 | 2006-09-28 23:23 | 作品(2004-2008) | Comments(12)

小さな。。。   


ゆっくりと
突然訪れる記憶の中に
今日という日がある

切れ切れに記憶が浮上してくる
幾分なつかしさを伴って
何年も積んだままにしておいたから
何重にも重ねた層の一番下から
まさか
というようなものが出てくる

新しいことは たぶん
始まっているんだろうね この先に
なぜなら
冬に感じていた
メランコリックな哀しみが浮上してこないから

綿毛の先で踊っているのは
予感とは呼べないほどの
小さなきらめき

ねえ
私はいるよ
ここに
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by hannah5 | 2006-09-27 23:57 | 作品(2004-2008) | Comments(2)

雨の中のトゥララ   


雨が
水たまりの中で
軽やかなステップを踏んでいる

小さなバレリーナたち

いくつもいくつも
トーシューズが濡れて
水の上を跳ねては
駆ける

春が踊っているような
夢が舞っているような

トゥララ
トゥララ

羽のように飛んで
トーシューズの先が
水につかないうちに
回る
回る

トゥララ
トゥララ

雨が
バレリーナを
宙高く
右や
左に

雨の中で
新しい風が
かすかに吹いている

トゥララ
トゥララ
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by hannah5 | 2006-09-26 21:45 | 作品(2004-2008) | Comments(5)

見る   


こうもしないし
ああもしない

けれど 一つだけの法則

見る

ただ 見る

何も考えずに
想像もしない

決め事を作らず
予定も立てず

見る

ひたすら 見る

ガラスのような気持ちで見ていると
心のフィルターには
意外なものが落ちている

それらを拾い集めて
くりくり 切ってみたり
ちくちく 縫い合わせてみたり

タペストリーができあがるころ
それらの日々を
もう思わない
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by hannah5 | 2006-09-25 20:06 | 作品(2004-2008) | Comments(8)

秋の夜   


なんで詩を書くの?



なんで鳴くの?
と、鈴虫に訊くようなもの

秋は虫の音色がうつくしい



人間の決め事

鈴虫の理由は
きっと違うだろう

存在誇示だったり
伴侶探しだったり
繁殖に必要だったり

それから
羽があるから
こすってみてるだけだったり

言葉があるから書く
丁寧に
礼をつくして

私を育ててくれた
言葉たち

りんりんと降りしきる
秋の夜
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by hannah5 | 2006-09-25 19:56 | 作品(2004-2008) | Comments(9)

噴きこぼれる風   


鳴ってくるか
奥底から

響いてくるか
眠らずに

煮立ってくるか
上るように

噴きこぼれる
抱えきれずに

放りあげる
空の彼方へ

太古から未来まで
縦にも横にも
風が棲む
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by hannah5 | 2006-09-25 10:32 | 作品(2004-2008) | Comments(1)

あったかい空気   


出会ったというより
降りてきたただ中にいた
今日

単純で
しなやかで
あたたかくて
丸くて
笑えたよ

限りなく心を引き伸ばさなくても
不足分を補ってくれた
あったかい空気

探し回ったのが
ウソのようだ



※あたたかい賛美の中で
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by hannah5 | 2006-09-24 19:53 | 作品(2004-2008) | Comments(2)

言葉の前で   


どうすればいいんだ

みぞおちのあたりがきゅっとつかまれている

頭の奥で鳴る
どんどん
どかん

直線を引いていく
まっすぐに
突然 前触れもなく
カーブを曲がった

見えたり
隠れたり
歩いていくよ
最後まで
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by hannah5 | 2006-09-24 19:51 | 作品(2004-2008) | Comments(0)