<   2007年 11月 ( 14 )   > この月の画像一覧   

ある形   


届かない遠いところにあるものの

忘却と記憶の曖昧な境目に
霧のように現れて
見るともなしに見え
捕えようとすれば
手の中に留まらない
もの

忘れていた眠りの合い間に
夢のように立ち現れて
そこはかとなく 消えることなく
また 消えるように

夜が深々と溶けだす頃
うつせみの小さな裂け目から
静かに放たれる

風のように流れ
雨のように彷徨い
生まれ 創られ
倦み疲れ 渦巻き

やがて浄化され
新しさが始まり
捕らえることのできなかったものが
ひとつの姿となって現れる

襞と襞の合い間に在る
もの

名前のない
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by hannah5 | 2007-11-27 23:48 | 作品(2004-2008)

主にあってふたたび   


主よ
あなたのみことばは私を励まし
私に力を与え
私を慰め
私を起こし
立ち上がる力を与えてくれる

主よ
あなたは優しい方
あなたは大いなる方
あなたは力ある方
私がどれほど泥の中でもがき
何度も転び
泥にまみれて立ち上がることが出来なくなっても
あなたは私を蔑まず
私を見下げず
それどころか私を想い
私を慈しみ
私の魂を贖ってくださる

主よ
もういちど、私を立たせてください
私があなたの御顔を見上げ
あなたのみことばを心に蓄え
光の子どもとなれるように

主よ
私がいつもあなたを想い
片時もあなたのそばを離れることがないように
私の手をしっかりと握りしめていてください


※今日の説教を聴いて

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by hannah5 | 2007-11-25 21:25 | 作品(2004-2008) | Comments(4)

冬になるとビタミンが足りない   


冬になると ビタミンが足りない
靴下が混雑して
厚い靴下や薄い靴下が順序不同に並ぶ
時には薄い靴下が気持ちよかったりするのだが
厚い靴下の方が安らかに履けたりする

冬になると ビタミンが足りない
アップルパイが似合うよと言って
コーヒーばかり飲んでいると
アップルパイは恥ずかしくなり
昨日と今日の境目にアップルパイが隠れたりする

冬になると ビタミンが足りない
お風呂からあがったら頭が凍っていたりする
あのしゃりしゃりとした不思議な食感
お風呂とはできるだけ長く付き合いたいから
適当な距離を置いてお風呂と付き合うことにする

冬になると ビタミンが足りない
唇が寂しくなってぼんやりする
唇は暴れたり震えたり 時には泣いたりする
唇が仲間割れをするので
唇に湿布をしてよく言い聞かせる

冬になると ビタミンが足りない
かじかんだ指で水仕事をしたり
針仕事をしていると
指がだんだんニヤケてきて
指の大きさに合わせて歩くことが難しくなる

冬になると ビタミンが足りない
むずかる子をあやすようにして
純情を落とし 親切を落とし
自分を落とし 最後に親を落とした
後悔がぼんぼんと鐘を鳴らす

冬になると ビタミンが足りない
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by hannah5 | 2007-11-22 23:48 | 作品(2004-2008)

泥水が溢れて   


薄墨色の泥水が満ちる
泥水は溢れて流れ
また溢れ

泥水を手のひらに掬い
泥水の中に立つ

泥水が肩まで溢れ
頭をすっぽり覆う頃
泥水の下の静けさに
足を取られて立ちすくむ

とある場所で
あるきっかけに
そっと思った
静かな泥水を

誰にも悟られずに
ふと降りてきた
ごく小さな
ごく個人的な啓示
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by hannah5 | 2007-11-20 23:41 | 作品(2004-2008)

寺西幹仁さんを送る会   


とうどうせいらさんの所で見たおしらせです。
詩学社の社長、寺西幹仁さんの送別会があるそうです。

寺西幹仁君を送る会
日時:11月28日(水) op/7:00st7:30
場所:無力無善寺(無力無善寺) 杉並区高円寺南3-67-1
料金:1000円+1ドリンクオーダー
1、オープンマイク参加者募集 当日受付(持ち時間一人5分)
2、寄せ鍋を開催します。一人一品食材の持ち寄りをお願いします。
なお、当日の売り上げを詩学社に寄付します。

幹事は馬野幹(マノミキ)さん。
詳しくはこちらへ

時間が許せば私も行きます。
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by hannah5 | 2007-11-19 16:04 | 作品(2004-2008) | Comments(0)

私の好きな詩・言葉(115) 「えいえん(佳子1997冬)」        (武田 聡人)   


 「もしもし、もしもし、神様ですか?」
 祖父から譲り受けたアンティークの電話機で、佳子は今夜も何者かと会話している。その電話機は飾り物でコードは何処にも挿してない。まあ、神様の声を聞くのに電話線を介さねばならない理由というのも思い浮かばないが、明らかに佳子は崩壊しつつあった。佳子には僕の背中にぽっかりと開いた虚無が見えるそうで、毎日神様にその穴を埋めてくれるようにとお願いしてくれているのだった。
 始めは些細なことだった。対人緊張の度が増し、雑踏の中に出るのを怖がり部屋から出ることが出来なくなった。毎日日没時になると窓辺から恐怖に慄いた目で夕日を眺め、「つれてかないで、つれてかないで!向こう側へ連れてかれちゃう、淋しいよ、淋しいよ」と泣き喚き、「あんたはぜんぜん私を見ていてくれない」と僕を責め、終いには車のキーや靴を隠すなどして僕の出社を妨げるようになった。
 全ては僕のせいだった。ピラミッドを逆さに立てようと試みたかのような僕らの生活、はたしてそれが生活と呼びうるようなものであっただろうか。
 或る時僕は探偵だった。最初から存在したことのない何者かを追跡するのが専門だった。また或る時僕は夜警だった。四頭の巨大な象の背中の上に支えられた円盤状の世界の果てで、決して届くこのとない何者かからの合図を待つのが勤めだった。全ては虚無が、僕の中の虚無が原因なのだ。
 神様との電話が始まった頃のとある晩、職場に病院から電話が来た。佳子を保護しているので直ぐ来てくれとのことだった。病院で会った佳子からは全ての表情と言うものが消えていた。何を問い掛けても反応がなかった。電車の中で、「うるさいわねえ、黙っていられないの!」と叫んだ後、昏倒したのだという話だ。入院することになった佳子を置いてアパートに戻ると、居間の床一面に土が撒かれていた。いやはや今度はアパートまるごと使ってガーデニングかい?片付ける気力も沸かず、ソファーにごろりと横になる。サイドテーブルを見ると、空になったナデシコの種子の袋が幾つも幾つも几帳面に折り畳まれて、星型の図形を作っていた。

   *

 最初の入院から帰ってきたその年の冬、佳子は麻痺したようにぼんやりと窓の外を見ていることが多かった。相変わらず神様との電話は続いていたが、もう夕日を恐れることはなくなっていた。
 その日、朝早く目覚めた僕は久々に佳子を外に連れ出すことに成功した。テレマークを履いた僕らは、近くの河川敷の疎林をゆっくりゆっくり散歩した。遥かな空の青みから幾筋もの光の帯となって射し込んで来る木漏れ日がとても美しかった。久々に身体を動かしたせいか上気した顔で息を弾ませながら佳子は言った。
 「ねえ、えいえんってこういうものなのかなあ。」
 そうかもしれないね。
 「ねえ、えいえんって何?どんなえいえん?」
 さあ、どんなものだろう、きっとお日様の光のように暖かくて優しいものなんじゃないかな。
 「そうかなあ、そうだといいね。」
 誰もいない林の中に、雪球を投げ合って子供のように戯れる佳子の声が木霊した。

   *

 その晩、仕事を終えて部屋に帰ると、佳子の姿は灯油のポリタンと共に消えていた。けたたましいサイレンの音がドップラー効果を実演しながらアパートの前を通り過ぎていく。救急車のサイレンの音を追って河川敷へ走ると、人垣の向こうの雪野原の中に、人の形をした炎が灯っていた。

   *

 その後、僕も何度か神様に電話をかけた。
 「神様、神様、これもあなたが望まれたことなのですか?」

   *

 神が答えるわけがない。


(武田聡人詩集 『えいえんなってなかった』 より)

他2篇
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by hannah5 | 2007-11-18 00:36 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(2)

記憶のタペストリー   


記憶の断片を拾い集め
時間の中で縫い合わせてみれば
昨日というタペストリーが幾枚か
今日というタペストリーが幾枚か
さらに明日というタペストリーが幾枚か出来てくる

それらは大抵
しみひとつないきれいなタペストリーだが
時々、しみがついていたり
かびが生えていたりする
洗ってはみるが
あまりきれいにならない

今朝もしみのついたタペストリーを一枚洗ってみたが
やはりしみは落ちなかった
かえってしみが広がって
白かったはずのタペストリーが薄いグレーになり
記憶が喪失されたままになった


記憶を呼び起こすという糸が何本かあって
その中から比較的丈夫そうな糸を一本選り出す
薄いグレーになったタペストリーをほどき
繋がっていた記憶の断片をバラバラにして
もういちど最初から縫い合わせてみた

新しく縫い合わされたタペストリーは
前のタペストリーより
少し元気がいいようだった


形の不揃いな記憶の断片が増えていき
タペストリーが忙しく作られていく

記憶を呼び起こす糸が
急速に不足し始めている
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by hannah5 | 2007-11-16 23:33 | 作品(2004-2008)

静かな海底   


外側から聴こえてくる言葉と
内側から聴こえてくる言葉の間に立ち
ゆらゆら揺れて
決めかねている

どちらもリアルに響く
けれど、どちらも仮りの響きようで

心に響いた音は
ペットにした小動物の悲鳴
間違って陶器のエサ入れに
押し潰されそうになった時
ギャアァ!
悲痛な声が聴こえた

心に響いた音は
イエス・キリストの思いやり
不埒な思いを心に蓄え
道を外して歩いたまま
自らを救いあげる方法など
持ち合わせなかった私を引き上げ
「わかるよ」と言った声

心に響いてこない音は
人間の声
ひとの心は蒼白く押し黙ったまま
牛乳瓶の底のような眼鏡で
海底を眺めている
笑い声も
叫び声も
あげないまま

静かな海底
私とは無関係の
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by hannah5 | 2007-11-14 23:46 | 作品(2004-2008)

帰路   


疲労の浮き出た終電車の中の
静かな重み

ため息を1つつくごとに
一枚ずつ剥がす
漂い、時として覆う
かげろうのような皮膜

笑いもせず
泣きもせず
さりとて言葉で訴えることもしなかった
蒼白い感情が現われて
さらに一枚剥がす

剥がしていくうちに
だんだん薄ら寒くなる感情の起伏を
すでに肌の下に感じながら
もっとも感じやすい表層を
座席の倦怠の上に
ゆっくりと降ろす

ここから先は
たぶん夢の中でさえ
見ることも願うことも忘れ
恨むことも悲しむことも
立ち寄らなかった世界

見ることと願うこと
それらはたぶん
あの人たちが教えてくれたこと

心臓の規則正しい鼓動
血液の正常な流れ

蒼白い感情が
静かに脈打っている
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by hannah5 | 2007-11-12 23:56 | 作品(2004-2008)

幕引き   


さようならの幕引きは
線の切れたところに
あっけなく

朝の空気の
まあるい陽射しの中で
ひょっこりと現われて
嬉しそうに ひとしきり
ぴょこぴょこと愛嬌を振りまいたあと
くるりと踵を返して
寝床へ戻っていった

それが最後だった

手のひらの中の
小さなぬくもりが
ぽってりと残る


登りきれない段差を
小さな四つの足が 交互に
かきあげ かきあげ
コロンと転がり落ちては
また かきあげ

掘ってみても掘れやしない
きっちりとした畳の表面をこじり
前足で ひたすら
シャカシャカシャカシャカ


顔をあげたら
何事もなかったかのように
ぴょこぴょこ 立っている気がして
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by hannah5 | 2007-11-10 22:37 | 作品(2004-2008) | Comments(4)