<   2008年 02月 ( 19 )   > この月の画像一覧   

あ、うん、   


そういうことだ、
と言える日がある

ちょうどこんな日
大きく開けてくるような
快晴が空一面を覆いはじめるような
わたしの中のあ、が
外気のうん、と
同じ呼吸をしているような

わたしの胸で脈を打っていた心臓が
大気の中で脈を打っている
わたしが息を吸うと
とくん、とくん、と
大気の奥から響いてくる

縮こまっていた背中に
大きな手が触れて
やわらかくときほぐされた背筋を
ぴんと空に向かって張ってみる

かけ違えていたボタンをはずす
苦しかったボタン穴が解放されて
ゆるゆるした風が
お腹の底まで吹きわたる

深呼吸がみぞおちの深いところからやってきて
大手を振って空の上を歩いている

こんな日は
風が泳いでいる
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by hannah5 | 2008-02-29 23:52 | 作品(2004-2008)

海に飛び込め   


林立する直立する縦横に走る
秩序正しく歴史の積み重なりの底に
満々と湛えられた水の集積

筋と肉は上手に切り裂くことができるかできないか
鋭利な刃の先を筋と肉の分かれ目に刺し込んで
勘を頼りに手前に引く向こうに押す

水の集積に刃を突き入れ攪拌する
しかし割合丈夫
悲鳴をあげない泣きわめかないされるがままになっている
それらには自我があり個性があり強靭な力がある

バラバラになったそれらを一つずつ拾いあげ
前頭葉が生み出して眼前に広げたイメージと色とフォルムをなぞり
並べる組み立てる積み上げる

水の集積の中の一つのピースが脳髄の片隅で笑いころげている


海に飛び込め


思考したこともない想像したこともない
水の集積の中の一つのピースが海の真中を泳いでいる
ひらひらひらひらら
多くの機会を得多くの出遭いを通し多くの願望により
多くの噴火を起こし形を欲し始める
一つのピースが一つのピースと連結する
一つのピースがあらゆるピースと繋がる結び合う
新しい水の集積を構築する

うねり進む 無限の海の中

『潜在性の海へ』より
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by hannah5 | 2008-02-28 12:02 | 作品(2004-2008)

言葉に出遭う   


限りなく
限りなく
焦がれるものよ

硬質な形
地の中に埋められ
掘り当てることが難しかった

天にある光
手を広げても
手のひらには落ちてこない

迎えにいく
身を繕い
息を整え

渦を巻く
とぐろを巻く
空気の中の臍の中心

五臓六腑を直撃する
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by hannah5 | 2008-02-27 15:54 | 作品(2004-2008)

私の好きな詩・言葉(120) 「不来方(こずかた)」 (城戸 朱理)   


涸川を渡るのは貞任(さだとう)橋、
いつまでも対岸に届かぬ軀を
つらそうに 少しずつ
追いやるようにして
あなたが追うのは、秋。
山郭は依々として
鳥もけものも午睡のうちにある
粧(よそお)いも深く紅だけあかく
戯れに真似てみるには
あまりに鮮やかな偽絵のよう

川の名は諸葛(もろくず)川、
あなたは指折り数えるが
何もかうろおぼえで。
もう会うこともないから、と
左右に分かれていく雲に似て
水系は伸び
いくつもの橋を流し去ってゆく

あなたは指折り数えるが
ほそい指は今しがた
川の魚の腹をなでたようで
清い瀞(とろ)を思わせる
あなたは順に指を折る
せいしゅん、青春。
せきか、赤夏。
はくしゅう、白秋。
げんとう、玄冬。
それは季節、それとも一生?
あなたは最後の小指を立てたまま
「それだけ」と口にする
それだけ、ただ生きているだけ。
駒ケ岳から水は生じ
雫石(しずくいし)川を水は流れ
川面には小さな筏が浮かぶ
あれは、百年前のまぼろし。

あなたの影は
方丈の隅に潜む闇のよう
陸稲(おかぼ)に蜻蛉がまどうころ
夏だから生まれる者がいて、
夏だから息絶える者がいて。
あなたが渡るのは三馬(さんま)橋、
小心な橋を踏み抜かぬように
自矢の身を運ぶなら
北上の淵に銀の腹を見せるのは
朱を刷いたうぐい、そして、あゆ
生まれなかった子供。
あなたは橋を行く
誰に命じられたわけでもなく
あなたがそうしているのが
千年の血の裔の証し――

けれども、
渡河する姿は死人(しびと)のよう
残された小指のよう。
誰もが目を伏せるのは
戯れに真似てみるには
その立ち姿が
あまりにあの世に近すぎるから。

川筋にだけ伸びていく眺望、
ここはそれだけの土地
筏流しが陸揚げされる土手に
残されるのは治水の碑
花崗岩の石積みをすすいで
静かに川は流れる
それも、百年前のまぼろし
よノ字橋、毘沙門橋を過ぎて
あなたは指折り数えるが
確かなものは何もなくて
そのくせあまりに鮮やかで。
いずれ、百年前のまぼろし

それとも――
編まれた地理が伝える
贋の過去?
遮られることに応じて道は折れ
耳の奥には
山鳴りが響きつづけるから
「あれは死人。」
針葉の先にぼおっとともる
あおい光を指差して
あなたは指を折る
せいしゅん、せきか、はくしゅう、げんとう
たたずむなら鑪山橋、
ふと気づくと
人生が終わっていたとでもいうように
無音の世界は広がって
鳥もけものも
醒めることのない午睡のうちにある
川が建てる落魄の音に
亡家の音も消え。
「このあたりの者」と
応答(いらえ)は限られて
あなたがたに
郷里は失われて久しいと云う
その街の名を、不来方(こずかた)。
それは二度と訪れぬという
古(いにしえ)の誓いの残した名。
あなたはふと気づくと
自分の生が終わっていたとでもいうように
淡い粧いで橋を行く
戯れに真似てみるには
あまりに鮮やかな偽絵のようで
誰に命じられたのでもなく
あなたはまるで死人のよう
清らな淵や瀞に
破鏡のさざなみは立ち。
今、だれかが身を投げる
それも、百年前のまぼろし。


(城戸朱理詩集『不来方抄』より)

『不来方抄』/「解題」より
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by hannah5 | 2008-02-25 14:37 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

視先   


めったに人が坐らない一番奥の
有線の真下の
暖房の風がやたらと当たる
コートやCDが積み重ねてある棚のそばに
居心地の悪さとなつかしさを同居させたまま坐る

ラーメンをすする音がざらざらと響いて
音のする方角に視線をやれば
無表情が垣根を作っている
超えることのできない高さにたじろぎ
送った視線を引き戻す

湯気の奥から急に笑い声が聴こえてきた
気を取り直して笑い声のする方に視線を送る
笑い声は一段と大きくなった
しかし、そこへ到達する前に進路が阻まれ
手持ち無沙汰のまま
視線は宙に浮いた

一人の客が飛び込んできた
思案顔が券売機の前で佇んでいる
客がチケットを渡して坐ると
疲労した風が舞い降りてきた

視線は落ち着くところを知らないまま
カウンターの前を往復している

たぶん永久に・・・

でも、本当は・・・

完了しないまま途中で消えてしまった言葉が
浮遊している視線の先にぶらさがっている

(本当はそうじゃなくて
(なるべくたくさん笑顔を引き出そうと思っているだけなのに

なかなかそこへ到達できない
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by hannah5 | 2008-02-23 23:55 | 作品(2004-2008)

わたしが生成される時   


永遠に、
にも似た時間がはるばると続いていく
朝から昼へ
昼から夜へ
夜が明け朝が来て
途切れることなく
夜の彼方から
朝が巡り来るまで
一日の始まりは夜からの続き
一日の終わりは朝への助走


かつて朝は一日の始まりであった
夜のうちに記憶のもっとも奥まった部屋に押し込められていた朝は
わたしが目覚めたとき初めて
解放されて蘇り
空気の表面に浮上した

夜は夢の中でひと区切りの長さをもち
最大限に開くもの
夕べわたしはそのようにして夢の一幕を見ていた

夜の中にしか存在せず
朝が来ると跡形もなく消えてしまう世界
ひとつの時間があり
時間の中にひとつの世界が存在した
ひとつの時間が終われば
ひとつの世界も終わった


最近、朝は夜を映し出し
朝の空気に染め替えるようになった

過去から未来へと時間が続いていく
時間から時間へ
ときを貫いて世界が作られていく

わたしは
目覚めている時間の片隅で
わたしが生成される音を聴いた
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by hannah5 | 2008-02-22 15:16 | 作品(2004-2008)

詩が書きたくなりました。   


詩が書きたくなりました。
と書くと、今まで書いてきたんじゃないの?と言われそうですね。

私が真似事で詩を書き始めたのは20代のころですが、その発端は高村光太郎でした。その頃、高村光太郎研究者の北川太一さんが主催されていた「高村光太郎研究会」(現在は「高村光太郎談話会」)というのがあり、私はそこへ定期的に出入りしていました。北川太一さんが新しい資料を発見されたり光太郎関係の書籍を刊行されたりするたびに飛びつくようにしてそれらを読み、連翹忌や智恵子展のような研究会主催の催し物には必ず顔を出し、福島県二本松にある酒造り屋だった智恵子の実家を見学し、果ては光太郎に多大な影響を与えたロダンの彫刻を見にはるばるパリのロダン美術館まで足を運んだり、光太郎の研究者かと思われるほど入れ込んでいた時期があります。(だから、光太郎研究会から研究会誌に論文を書いてくださいという依頼までされていました。もっともこの話はまったく覚えていなかったのですが、最近その頃書いた日記を読んでいたらそんなことが書いてあったので、あの頃はかなり悲壮感たっぷりの入れ込み様だったのだなと思いました。)その頃書いた詩は私の言葉というより、光太郎の言葉を写したような詩でした。なにせ光太郎の言葉をノートに書き写しては暗誦していたのですから、だんだん光太郎ばりになるのも当然だったかもしれません。ただ、あの頃はもっとゆっくり言葉を書いていたと思います。丁寧に推敲したり訂正したり、じっと寝かせておいたり、ひとつの形に仕上げるのに時間を長くかけました。どこかに発表するために書いていたわけではありませんでしたが、あの頃の自分の詩を読むと、今よりずっと言葉が落ち着いているのを感じます。

昨夜、詩織を始めてから書いた詩を少し読み返していたのですが、ハイスピードで書いた詩はいかにも言葉が粗く、こういう状態をこのまま放って前に進むことはできない、少なくとも納得のいく詩を書いていきたければもう少し丁寧に言葉を拾っていかなければだめだとつくづく反省しました。

これからは詩をもっと丁寧に推敲しながら書いていくことにします。詩織の更新はその作業が終わった後で行いますが、書いた詩をすべてアップするかどうか今のところ未定です。したがって、更新がかなり遅くなることも予想されます。また、エキサイト以外のブロガーの方達が詩織を訪れてくださる窓口としてランキングを置いておきましたが、それも必要を感じなくなりましたので取ることにしました。

いつも詩織を訪れてくださってありがとうございます。ゆっくりの更新ですが、これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。


はんな
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by hannah5 | 2008-02-20 22:17 | ご挨拶 | Comments(6)

匂い   


ちっとも好きになれない匂いを嗅いでいたことがある
菜の花やたんぽぽが咲き出す前の
春の初め

まだ風は冷たかったけれど
陽射しが明るくなってきたから
街の中を歩いたりウィンドウを覗いたりした
冬のコートが重くなり始め
そろそろフラットシューズが履きたくなっていたころ
わたしのそばを匂いがふっと通り過ぎた

予感、
ってあるだろう

という疑問符だけが大きくなるような
どうして?
と問いかけても永遠に答えが見つからないような
1+1=2
のようにスッパリ割り出せないような
違うよ
としか言えないような

ボタンをかけ違えたような匂いがした

いろいろな人にいろいろな事を言われた
そんな匂いは当てにならないとか
変に気にしすぎだとか
おまえは気難しいとか
けれど、わたしは自分の中から
違うよがいくつもいくつも湧いてくるので
自分を信じるしかなかった

春が過ぎて夏になり冬が来て
また春になり
季節はいくつも巡って過ぎた
新しい春が来るたびに新しい匂いを嗅いだ
そのたびに新しい疑問符が生まれ
新しい違うよが聴こえた


***


季節がいくつも巡っては過ぎ
過ぎては巡り
新しい季節が無限に並べられ
そのもっとも遠い季節のその先で
いつか本当に
寸分違わず
うん、
とうなずくことができたらいい

昔からずっと
ずっとそう思ってきた

More
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by hannah5 | 2008-02-18 23:42 | 作品(2004-2008)

その詩人   


その詩人の言葉を読んでいたら
心臓の付け根あたりをきゅっとつかまれた

寒い街の中を歩き回って
手も足も氷のように冷たくなって
お腹もすいてきて
けれど、その詩人の詩を読んだとき
なんだかとてもしんみりしてしまって
わかるよ
っていう言葉が
心臓の付け根あたりを
くるくる くるくる 回ったよ

それでわたしは
街はずれの小さなレストランに坐って
もういちどその詩人の詩集を開けてみた

それはその詩人とその詩人に恋した女のひとの話だった
心臓がトクトクするような素敵な始まりだったのに
二人の見つめる先が少しずつずれていって
しまいに女のひとは
その詩人の墓のそばに立っていたという話

男のひとと女のひとって
根本的に違う生き物みたいだ
ワルギはないんだけどね

わたしが◇○×△みたいにいろいろ思っていても
男のひとの網に引っ掛からないことがよくあって
引っ掛からないから男のひとにはどうでもいいのかと思っていると
いつのまにか悲しい顔をしていたりする

その詩人がせっせと詩を書いている間に
女のひとはその詩人が見ようともしなかったものをどんどん見ていた

  なんでその詩人は
  しまいに死んでしまったんだろう

しんみり考えていたら
最近、認知症が進んで
言動がチグハグになってきたうちのおやじのことが思い浮かんだ

男と女の役割が
今よりもっとキッチリ分担されていた時代に育ったおやじは
女の気持なんてわからなくて
ひたすら働いて働いて働いて
働くことしか知らなくて
おふくろの心の中のさざ波にも気がつかず
二人の接点が微妙にずれていたことにも気がつかず
でも、おふくろはなんにも言わなかったんだよね

いまはわたしが
寝たきりになってしまったおふくろの代わりに
洗濯したり掃除したり料理作ったりしているけれど
おやじはやっぱり
おふくろの心の中のさざ波は知らないままなんだ

ぼんやり宙を見ているおふくろの眼の中に
おやじはどんなふうに映っているんだろうって
ときどき思う


『詩人の墓』(谷川俊太郎)を読んで。
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by hannah5 | 2008-02-17 23:46 | 作品(2004-2008)

感動   


ほんとうは
この感動を現わす言葉があるといいのに

じっとしていられなくなった心臓の中で
血液が噴水のようにわあっと噴きあがる

それは
夏の夜空の花火とも違うし
友人と笑い転げているのとも違うし
庭の枇杷の葉陰でグリーンいろのつがいのメジロが
小さな丸い体を寄せ合って
くるるるると、お互いに羽づくろいし合っているのとも違う

それは
火照るような
涙目になるような
遠くが見えたかと思ったら見えなくなるような
地の底が真っ赤になるような
すごいものなんだ
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by hannah5 | 2008-02-17 23:45 | 作品(2004-2008)