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訂正   


野木京子さんの朗読会のところで、『ヒムル、割れた野原』 から2篇引用させていただきましたが、野木さん自身が好きだとおっしゃっていた「石によろこびがふりますように」に差し替えさせていただきました。先の「(声を発しないものを愛する習性が私にはあって」も私の好きな作品ですが、「石によろこびがふりますように」は、朗読会のあと、ずっと私の中でリズムになって残っていました。


Poetry Voice Circuit ~ 野木京子さんの朗読会
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by hannah5 | 2008-03-31 12:15 | 詩のイベント | Comments(0)

金曜の夜は寂しくない   


歩きながら笑っている、右手で井戸をキーコンキーコンと汲みあげる
日陰のもやしみたいなしょろっとした女の人がガラスの中を歩いている

どこから来たの?
  どこへ行くの?

訊こうと思って息を整えているうちに、ガラスの端から落ちていった
目玉がピカピカ光るのに、なんだか嬉しそうだ、トンボたち
文庫本にしがみついてジュースを飲んでいたら
いつのまにか文庫本がチューチュー音をたててストローの中を走っている
ストローは口に吸い付いたまま、シュルシュルと口の中に消えていった
コーヒーをむしり取ってみると、コーヒーは案外機嫌がよく、メールの処理なんかを手伝ってく
 れる
そういえば、隣の人も文庫本を読んでいて
斜め向かいの人も文庫本を読んでいて
遠くの人も文庫本を読んでいて
ふと見上げると、天井にも文庫本を読んでいる人がいて
友だちとおしゃべりしている人が文庫本を読んでいて
ハンバーガーを食べていたら、文庫本が目を覚ましたので、ハンバーガーを食べさせてあげ
 た
それから、文庫本の中で泳ぎながら、携帯かけている人がいた
黄色い花粉をまぶしたコートがひらりと自転車に乗った、
と思ったら、ガラスを通過して消えてしまった
フライドポテトが順番待ちの人を探している
トイレは永遠にあかない、行くたびに掃除を繰り返しているから、永遠に走り続ける

太い孤独が二、三十本生えている、細い孤独が二、三十本生えている
見渡すと、林立している孤独の上にアーチがかかっている
アーチの根元に私の孤独を一本植えた

明日、見にいくつもり
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by hannah5 | 2008-03-29 13:47 | 作品(2004-2008)

べつに   


べつにあなたを拝むつもりはないけれど
やっぱりあなたがよくて
素直に認める
いいんだよ 負けても

べつに若ぶっているわけじゃない
やや発育不全で
今ごろ感じているんだ
でも 私にとっては今が旬だから
そのままね

べつに今すぐに形にしなくても
溢れてくることばの流れに沿って歩いていけば
いつかどこかに辿り着いて
そこから芽が出てくるよ
にょきにょき

それからだって
  遅くはないでしょ

自分があるとかないとか
べつに興味ないしなぁ
神さまがくれたことばに
毎日水遣りを忘れずにいるだけだし
ことばがね 生き物みたいに動いているから

外へ行っては
あれもいいこれもいいって持ってくるけど
どうして外ばかり見てるの?
べつにいいと思うけど
こっちから外へ持っていっても

遅い早いはべつに関係ない
走ったってどうせ間に合わないし
競争は苦手だし
それより 手で掬うと手の中に残るから
小さなひと粒だけど

あなたが歩く
私が走る
あなたが駆け出す
私が坐る
それでいいよ

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by hannah5 | 2008-03-27 23:26 | 作品(2004-2008)

Poetry Voice Circuit ~ 野木京子さんの朗読会   


3月25日(火)午後7時から、野木京子さんの詩の朗読会があり、行ってみました。野木京子さんは詩集『ヒムル、割れた野原』で第57回H氏賞を受賞した方です。H氏賞という大きな賞を受賞されたにもかかわらず、受賞の時の野木さんの言葉にはひっそりとした感じがあって、印象に残っていました。

朗読会の会場となったギャルリー東京ユマニテは銀座線京橋駅から歩いて1分ほどの所にありました。会場に着くと、来会者はまだまばらで、黒いドレスの小柄な女性と目が合いました。すぐに野木京子さんとわかり軽く会釈すると、野木さんも小さく微笑んで会釈をされました。開演まで少し間があったのでトイレに立ちましたが、そこで野木さんと体面することになり、正式にご挨拶となりました(笑)。

野木さんの朗読は凛とした緊張感があって印象的でした。本を右手に持ち目線と同じ高さまで上げ、構えるような姿勢で声を張って朗読されました。次々と読まれる言葉を聴きながら、野木さんの小さな体から溢れるように零れ落ちる言葉が私の胸を揺らすので、私は目を開けて聴いていることができませんでした。

朗読会の後は二次会に誘っていただき、野木さんとPoetry Voice Circuit のプロデューサーの天童大人さんと来会者数名が参加されました。(なんとここで、『数式に物語を代入しながら何も言わなくなったFに、掲げる詩集』(思潮社の2006年現代詩新人賞受賞)の中尾太一さんに出会いました。ミーハーよろしく早速サインをもらいました。)終始大きな声で檄を飛ばすハバネロ(あの辛いスナック)みたいな天童さんとさりげなく気を遣ってくださる優しい野木さんの間に坐って、夕べは思いがけず楽しい時間を過ごさせていただきました。野木さん、天童さん、中尾さん、それから二次会で出会った方たち、ありがとうございました。





  振動、音粒の空


遠くで鳴っているよ
だれかのてのひらがすくいあげた
遠い飛沫の音が
かすかにこちらへ響いて
遠くで鳴っている
空を震わせながら透いた飛沫の音はふりそそいで
その音粒をわたしは内にしまいこんだ
そのなかには別の人の音がしまいこまれていたから
それらは連綿と続いた
消えてゆくものたちが恩寵の
小さな音を流している
どこかに埋められている
やさしい骨たちは静かで
わたしが知らなくても
地の粒のすきまから
響きを上にあげて
風に混じって空へ飛んだあと
ふりそそいでいる
どこにもいなくてもどこにもいるものみたいに
なにかを外に流し続けている







  石によろこびがふりますように


からだを低くするのは石を拾いあげるため
耳をおろし、川面の頬に触れた
水に濡れたそれを拾うと
季節は冬で、風にはうすく光が混じって
私は冷えた石を握って
乗り物に乗り
別の、遠くの、静かな川へ運んだ
からだを低くするのは気づかれずにそれを
別の、遠くの、静かな河原の石に、混ぜて置くため

よろこびだけが、人と、人でないものとを支えている
そこにはだれも姿がなくて私は、影と擦れ違った
空が円く笑い
影は風に乗って流れるように走り
木陰に溶けたり、地に沁みこんだりしていた
私と影は、その日、うすいよろこびの中にいた

覚えていますか
覚えていますか

覚えているはずもないのに ――
世界は石の記憶の中で眠るようなものだから
はじめからなにも持っていなかったのだから
なにも持たないまま消えていくことをどうぞ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
だれもいなくなって、
この地に石だけが残されたとき
石によろこびがふりますように



                    (詩集 『ヒムル、割れた野原』 より)

野木京子さんの略歴
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by hannah5 | 2008-03-26 23:46 | 詩のイベント | Comments(2)

あなたが聴こえる   


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ねえ
あなたの声が聴こえる
ぼくの中で

あなたが笑ったり
泣いたり
叫んだりしている

とくんとくんと鳴る
あなたの心臓が
ぼくの中でかけめぐる

ねえ
あなたには
ぼくが聴こえますか

※友人の写真に言葉をつけました。
 (写真は友人の写真帳です。)

コラボ
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by hannah5 | 2008-03-25 14:09 | 作品(2004-2008) | Comments(0)

詠うことは   


その苦しさを詠えばいいのだろうか

押し潰して
押し潰して
ぼとぼとと落ちてくるどろりとした液体は
臭く苦く渋く穢いどろどろの

絞れよ
絞れよ

絞ったあとの残りかすはすっかりやせ細り
味も素っ気もなく
茫洋と空ろで虚しさばかりがつのり
ぽってりとみずみずしく美しかったあのころの面影はなく

あるいはその楽しさを詠えばいいのだろうか

絞るだけ絞ったことが
苦しいようなやりきれないような悲しいような 混ざり合って
笑顔が欲しかったのに笑顔を掴み損ねて

けれど、どうしても陽の射しているあのあたりに棲んでみたくて
そこを目指して上っていく
ちろちろと光が反射していて
それを見ているだけで 生きているあたたかさが手の中に落ちてくる


わたしの中に落ちている音が
メトロノームのように右に振れる左に振れる

右へ左へ
右へ左へ

その苦しさを詠えばいいのか
その楽しさを詠えばいいのか

ティクタク
ティクタク


(3/24 少し訂正しました。)
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by hannah5 | 2008-03-23 23:51 | 作品(2004-2008)

雨のように   


雨がしずかに降ってくる
わたしはその中を 雨になりながら
雨のように歩いている
ジーンズの裾を濡らしている雨が
わたしの中で小さな雨粒となって
いつまでも いつまでも
降りつづいている

冷たくなった足の先を縮めて
固いペイヴメントを足早に歩く

うすいグレーの街の中に
雨粒が震えて生まれ ころころ落ちていくから
手のひらをさし出して ひと粒ずつ受けている
転がっていきそうになる粒たちを
失くしてしまわないように
粒たちを繋いで 手の中にじっと持ってみる

風が揺れて 雨が斜めに降りはじめる
繋いだ粒たちも斜めに揺れはじめる
粒たちが千切れそうになって
わたしは雨の中を
粒たちを抱えながらうつむいて歩いた



ふと見ると
ペイヴメントの上に
あの人の濡れた肩先が落ちていた
紺色の細い肩先には
銀色の雨粒が無数についていた
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by hannah5 | 2008-03-21 13:30 | 作品(2004-2008)

二杯目のコーヒーは美味しかった   


切り刻んできっちり並べた時間と時間の間には手を差し込む余地はなく
追いかけていってはつかまえて刻み
やっと見つけたわずかな隙間で
ごはんを千切りながら雪崩のようにかきこむ

今まで走ってきた時間
これから走っていく時間

ヒュッヒュッと機関車のように息を作って生みだす
そのうちもう生まれなくなったころ
覗きこんで息を引き抜いた

夜はいつのまにかやってきていた
足音もたてずにこっそりわたしの後ろに坐っている
すると、思いがけなくわたしの前にぽっかりと空洞ができた
走っていったはずの時間が
空洞の中に所在なげに立っている

わたしはどうにも居心地が悪くなって
その空洞に意味を見いだそうとした
味も匂いもしない空間が広がっているばかりだったが
どことなくぼんやりとあたたかい

わらわらと落ちていくクリームを突き崩すと
うすいブラウン色が空洞の中に広がっていった



※非常に忙しくて、息が乾いてしまった日の言葉。
 切れ切れに言葉が落ちていたのを拾った。

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by hannah5 | 2008-03-18 21:03 | 作品(2004-2008)

春めいてきましたね   


こんにちは。
皆様方にはいかがおすごしでしょうか。
明日から今週いっぱい、しばらく過密スケジュールの中を駆け回ることになり、
今週は詩織の更新は休ませていただきます。
この次の更新は来週月曜日を予定しています。
戻りましたら、またお付き合いください。


はんな

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by hannah5 | 2008-03-13 23:21 | ご挨拶 | Comments(12)

こぼれ・オチル   


限りなく指をしなわせて
限りなく食物の小さな欠片を口にはこぶ
ほそい指先が小さな欠片をじょうずにつまみあげて
小さな穴に向かって夢みるようにうっとりとはこび入れる
下から上へ行くリズムが等間隔に並んで
しかしそれはどこにも流れていかず
手元に落ちるメールの着信音を拾いあげては 空気の中にじっと透かしてみる

―― 会えないことは罪ではないから

遠く隔たった波のむこうで
たった今送ったばかりのメールが着信音と一緒に
待つ人の手の中に落とされる
じっと見つめる画面の中に
壊れそうなため息が
無音のまま吐きだされる

―― いつかのように始まって いつかのように終わっていく
―― いつかのように始まって いつかのように終わっていく

読経のように響く単調な繰り返しが 耳の中を往復して
本当はそろそろ家路につこうと思うのだけれど
なかなか腰を上げることができない

握っていた指の間から もろもろと砂がこぼれ落ちていくような
ぼんやりとした儚さはいつから始まったのか

―― さらさらとこぼれていく、砂のように
―― 波のように、さらさらと流れて落ち、いずこへ

平行線に伸びたため息を切り離すことができない

ほそい指がしずかに砂を握りしめている
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by hannah5 | 2008-03-11 23:45 | 作品(2004-2008)