<   2008年 04月 ( 12 )   > この月の画像一覧   

幸福の生やし方   


美味しい
という感覚が
咽喉を伝って腹の中へ落ちていく
その瞬間
頭上のはるか上を浮遊していた脳細胞が次々と降りてきて
感覚にぴたりと寄り添った

固く硬直した脳細胞は
ふわふわと柔らかい感覚のまわりを
くるりくるりと回りながら降りてくる

  しごく単純な生命の存在意義がここにある
  私が生まれてきたのはこの生命の存在意義を確認し
  自覚し再生するためではなかったか

実は
脳細胞は頭上のはるか上へと上昇しようとしていた
上昇しようとすればするほど
脳細胞は生命の存在意義を複雑に捉え
無味無臭の結論を引き出そうとしていた

  私が生命と生命の存続意義を見いだすことができず
  かなり心細く寂しい思考に陥っていたのは
  無味無臭の結論にのみ固執し
  美味しい
  という極めてシンプルで明快な感覚言語を忘れてしまっていたからではないか
  私は単純な感覚回路を見失っていたのではないか

  感覚回路を回復させると
  地面に足を垂直に立たせることができるようになる
  足はやがて歩行し始め
  脳細胞がはるかな高みから下降して
  足の後をついて歩くようになる

よく見ると
足に根が生えていた

今日は正確な時間が刻まれているらしい
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by hannah5 | 2008-04-29 13:35 | 作品(2004-2008)

アドレッセンス 3   


ここまで来て思うのだけれど
私はやっと、
やっと逃げてこられた

私にはあなたの知らない塊があって

  阿古屋貝が小さな石ころを放り込まれて、好きでもないのに強制的に抱かされるでしょ、
  真珠を作るために、あれみたいな固い塊が胸の奥の方に放り込まれたまま、痛い思い
  をしてころころ抱かされてた

きいんと肉に食い込むその石ころを
吐き出すこともできなくて
唾でくるんでじいっと抱えていた
長いこと
ほんとに長いこと
いつから抱えていたのだろうか
もしかすると、この世に生まれ落ちた瞬間からかもしれない

私はあなたのレプリカみたいで

  あなたは私をあなたの分身と呼ぶけれど
  そう呼ばれるたびに
  ぬるりとした粘液が噴き出し
  私の中の石ころを包みこむ
  すると、粘液に包まれたその石ころは少し大きくなる

阿古屋貝の中の石ころは
貝が粘液を出すたびに美しい真珠へと成長するけれど
私の中の石ころはぼつぼつした表面をもったいびつな塊のまま
次第に大きくなっていった

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by hannah5 | 2008-04-26 23:52 | 作品(2004-2008)

春の掲示板です   


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東京の今年の春は春らしいなぁという感じる日が少ないですが
皆さまの所はいかがでしょうか。

春の掲示板を作りました。

コメント、ご質問、ご意見などありましたら、こちらに書いてくださいませ♪


はんな
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by hannah5 | 2008-04-25 14:37 | 伝言どうぞ♪ | Comments(16)

アドレッセンス 2   


そういえば
わたしも歩いていた
ギザギザの道たち

とんがったり
つんのめったり
激痛にうめいたり
今ならひと言で形容できるそれらが
あの時はそのどれでもなくて
ひたすら分解しては組み立て
組み立てては分解し

そんなふうに
先回りして言われてしまうことが
恐怖でした
       本当は

愛してくれなくてもいいから
わたしを見てください
わたしそのものをちゃんと見てください
あなたが理想とするわたしは
この世には存在しないのですから

わたしには
わたしなりの
息の仕方があるのです

鳥肌のぶつぶつ
潰れたままのしわくちゃ
あなたに見つからないように
あなたのいない所で
わたしを広げる

突然駆け出す
突然転倒する
もんどりうって仰向けに
それでもかまわなかった

何億という細胞が
あなたに奪われてしまった
その中のひと粒を
今夜 わたしは取り返しにいく
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by hannah5 | 2008-04-24 15:59 | 投稿・同人誌など

La Voix des poètes (詩人の聲) ~ 小池昌代さんの朗読会   


4月22日(火)午後7時から、京橋駅から徒歩1分の所にあるギャルリー東京ユマニテで、小池昌代さんの朗読会があり、行ってきました。

会場に着くと、黒のパンツに綺麗な柄のゆったりとしたブラウスに身を包んだ小池昌代さんが、椅子に腰掛けてすでに朗読を始められていました。小池さんに会うのは、2007年6月に立教大学で行なわれた谷川俊太郎の「詩を読み、詩を語る」で司会進行役を務められた時以来のことですが、あの時はご自分の詩はまったく読まれなかったので、今回とても楽しみにしていました。可憐で品の良い小池昌代さんが、マイクを使わずにどのように朗読されるのだろうかと思っていましたが、よく通る声で朗々と朗読され、聴いている私たちはその語り口に引き込まれました。

私の中では『現代詩文庫小池昌代詩集』の小池昌代さんが強い印象となって残っています。『現代詩文庫』の裏表紙には、若い頃のすらりとしたショートヘア姿の小池さんの写真が載っています。また、飯島耕一さんは小池さんに会った時の印象を次のように書いています。「小池昌代とは三度会ったことがあり、1度目は5、6人で1996年の夏、世田谷の三軒茶屋の2階にある小さなスナック・バーのような店だった。2度目は98年ごろ、吉祥寺のビル地下の蕎麦屋でやはり数人の集まりだったが、何しろ無口で、印象は淡く、ただし眼はパッチリとしていて背も高く綺麗な人だと二度とも思った」(「作品論・詩人論」より)。そういうわけで、私は長いこと、無口で印象の淡い小池昌代さんばかり想像していたのですが、谷川俊太郎さんの聞き役を努められた時も今回の詩の朗読でも、聴衆を惹きつける語り口をもっている話の上手な方であるという印象をもちました。(それもそのはず、小池昌代さんは立教大学の教授です(文芸・思想専修特認教授)。人前で話すことは慣れていらっしゃるのです。)朗読の合い間には、今読んだばかりの詩の背景や詩を書いた動機について話されました。朗読は3冊の詩集(『雨男、山男、豆をひく男』、『ババ、バサラ、サラバ』、『現代詩文庫小池昌代詩集』)からでした。嬉しかったのは、「りんご」を読まれたこと。「りんご」は私が小池昌代さんの詩を読み始めた頃に出会った詩で、すがすがしい朝の雰囲気がりんごを通して伝わってきて、「すがすがしい」とひと言も言わずに朝のすがすがしさを表現していることに感銘を受け、繰り返し読んだ詩です。



「りんご」


ところで
きょうのあさは
りんごをひとつ てのひらへのせた

つま先まで きちんと届けられていく
これはとてもエロティックなおもさだ

地球の中心が いまここへ
じりじりとずらされても不思議はない
そんな威力のある、このあさのかたまりである

うすくあいた窓から
しぼりたての町並がこぼれてくる と
どこかで とてもとうめいな十指が
あたらしい辞書をめくるおと
おもいきりよく物理的に
とんでもないほどすがすがしく
わたしのきもちをそくりょうしたい
そんなあさ
りんごはひとつ てのひらのうえ
わたしはりんごのつづきになる

なくなったきもち分くらいのおもさ か

あのひとと もう会わない
そうして
きょうのあさは
りんごをひとつ てのひらへのせた

( 『現代詩文庫 小池昌代詩集』 より)




「スター」


わたしは舞台の袖にいて
闇から
光に満ちた板のうえへ
蛇のように抜けて出ていく あの人を見た
そっとのぞきこむと
観客席は
顔を失い ぬめりを帯びた夜の塊
そこから拍手と笑いがおこり
桃色のてのひらが 蝶のように舞う
あの人がおじぎした
どうしてだろう
正面から見るのと
こうして横から見るのとでは
あの人は まったく別の人に見える
ここから見ると
あの人は残骸だ
無数の鳥たちに啄まれた内臓
だれかがあの人の名前を呼んだ
本名かもしれない、そうでないかもしれない
本当の名前は誰も知らない(本人も)
再び 拍手がおこり 指たちが踊り
無数の赤い唇がさけ
そのなかに
ひとつひとつの 闇の穴があく
がま口のように 性器のように
あの人は あれにどうやって耐えているのだろう
光を浴び続けて 摩滅した顔
何が終わったというのか
あの人が帰ってくる
舞台の袖に
誰かがあの人を抱きとめてやってほしい
わたしはここにいて ここにいないのだから
あの人にわたしは決して見えないのだから
けれど闇のなかへ 戻ってきたあの人を
人々は いつも もてあます
一刻でも早く 光のなかへ
おいやってしまおうと
あの人の背中を やさしく(決然と)
反対向きに くるりと直す
光と闇を 幾度か往復して
あの人は水のうえの
もろい紙の船
深夜 たどりついた家のドアを押す
そこにはもちろん誰も待っていない
ベッドのうえ
あの人は口を薄くあけて眠る
小さな蝿が 舌のうえにとまった
あの人は気づかない
もう 死んでいるから


( 『ババ、バサラ、サラバ』 より)

ひと言
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by hannah5 | 2008-04-23 12:28 | 詩のイベント | Comments(0)

アドレッセンス 1   


長い
 ながい
  アドレッセンス

伸ばせるだけ
  のばして

固い殻はいつまでも割れない
永久に孵化しない卵を抱いて
じっと温め続ける

見知らぬ街に住むことは
スポーツをするより易しく
さざ波も立てないまま
眠り目覚め幾日も
眠り目覚め季節は変わらず

逃げてきたわけではなく
逃げていくわけではなく
殻が割れないから
断崖から落としてみたくなっただけ
ひと思いに絶壁の下の荒波に向かって

長い彷徨のあとに
うつうつとした霞たなびく
一寸先の曖昧な表情が読み取れないまま

どこへ行くの?
どこまで行くの?

何かをすることは何もしないことに等しく
何もしないことは何かをすることに等しく

新しい街はいつまでも知らん顔
慣れない土地の慣れない暮らしに忍び込み
街のはずれから街のはずれまで移動する
新しい発見と古い記憶が同居して
そろそろ子どもの暮らしを脱ぎはじめるころ
そろそろ大人の暮らしを着はじめるころ

うつうつとした霞がぼんやりと街を流れる

遠い昔と近い未来が混ざり合い
混ざり合わされる

長く
  ながく伸びたアドレッセンス
    伸ばせるだけのばして
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by hannah5 | 2008-04-19 23:23 | 作品(2004-2008)

私の好きな詩・言葉(122) 『召喚』 から (城戸 朱理)   




まず死者が)迷妄と呼び
迷妄とわれわれは呼ぶ
おし開いて
突き進むのであろうか
難産だったと聞いた
母の声を避けて
緑の沼
あなたに相似のものを捜す
浮遊していたものはくずれ
みずぬるみ
指すべらせて
おたまじゃくしに触れる
と書く前に
握り潰している
むしろそのように書かれる
ように進む
「一生アレルギーだ」
少年の顔をしたものは呟く
酢模(すかんぽ)を噛みながら
やがて都市で 目覚める前に
何かの器官を
震わせる
のだろう。


(詩集 『召喚(cité)』 より)

ひと言
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by hannah5 | 2008-04-13 23:52 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

私たちが忘れた頃に   


青黒い空気が街を覆っていくその片隅を
小さなとっかかりを見つけて
チッと引き裂く
それは何かの始まりかもしれないし
何の始まりでもないかもしれない
気をつけていることは一気に引き裂かないこと
小さな傷を作って空気に当てること
いつのまにか傷が癒えていたら
成功したといえる

翌日 また
青黒い空気がシャッターのように下りてくる頃
昨日の傷痕を爪の先で引っ掻いて小さく穴をあける

かゆいかい?
  かゆいだろう?

癒えかけたかさぶたはむずむずするものさ
そこをクッとこらえて引き裂いてみるんだよ
それから放っておくこと
明日まで

そうして 毎日毎日傷を作り続ける
そのたびに 毎日毎日少し癒える

チッ
チッ
チチッ
チチチッ
チチチチチチッ!

いつか
人も私もすっかり忘れた頃
傷は癒えることをやめて
世界はゆっくりと揺れ始める
誰も止めることができないほどゆっくりと大きく
世界が揺れ始めるのだ
絶対的に世界が揺れるその中で
私もまぎれもなく揺れ始める

人も私もとうの昔に忘れてしまった頃
世界は大きな卵を生み始める
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by hannah5 | 2008-04-10 23:54 | 作品(2004-2008)

霧に囲まれる   


  私たちが会うこと
  私たちが話すこと
  私たちが思うこと

曖昧な高さに吊るされたまま
漕ぐ、揺れる、
漕ぐ、揺れる、

どこまで?
どこから?
どこへ?

霧が立ちこめる
闇と明るみの境目が見えない

希望が彷徨い
絶望が戸惑う

船主が舵を握らないまま
私たちは船に乗せられ
出奔する時間が迫っている

(霧を払いなさい!)
いつ?
どのように?
いつまで?

  私たちが会うこと
  私たちが話すこと
  私たちが思うこと

霧はますます深くなり
今日が深く閉ざされる
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by hannah5 | 2008-04-08 23:50 | 作品(2004-2008)

紙片が積み重ねられていく   


そんなふうにして始まる夜が
私はこの上もなく好きで
ひんやりとした床に座りこみ
時の経つのも忘れて
夢のような現の狭間で
現のような夢の皮膜を
手に取り 眺め
ゆっくりと纏ってみる


夜がおし開かれていく


抗うようにして閉じようとする夜の一幕を
―― 本当はかなり生々しく
―― かなり癖のある素肌を持っているのに
縦横に広げ 撫でつけ
開ききってしまうまで広げ続ける


そこには静かな時間が流れていた


いつだったか、
遠い昔のことなのか
そう遠くない日々のことなのか
今となっては境界線もぼやけてしまい
位置を確認することは不可能だが
―― 少なくとも、最近でないことだけは確かなようだ
ある午後の倦んだ時間に
うねるような息と詰まるような息を同時にしていたことがあり
その経験は後の私を形成する基盤となった
それ以来
そのことを思い出すとたまらなくなるが
夜のもっとも深いところから思い出を取り出しては
目の前に置いてみている

地味な色の紙片が積み重ねられていく
永遠という時間の中で
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by hannah5 | 2008-04-06 23:35 | 作品(2004-2008)