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トークショー「田村隆一の魅力」   


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                     (写真は城戸朱理さんよりお借りしました)


4月26日(土)から7月6日(日)まで、今年、没後10周年を迎える田村隆一の企画展「田村隆一 ~ 詩人の航海日記 ~」が鎌倉文学館で開催されています。その関連イベントとして、5月29日(木)午後2時より、トークショー「田村隆一の魅力」が開催されたので行ってきました。(出演: 田村悦子(田村隆一夫人)、城戸朱理、宮崎京子(鎌倉文学館学芸員)、久能靖(ニュースキャスター、鎌倉文学館理事、司会))

正直に言えば、私自身が荒地の詩人たちから影響を受けたことはまったくありません。長い間、「荒地」という名前を耳にしてきましたが、今の私は荒地以後に登場した谷川俊太郎や大岡信、小池昌代、最近次々と登場してくる現代詩の詩人たちから受けている影響の方がはるかに大きいのです。

しかし、トークショーを見るだけとはいえ、少しは田村隆一の詩集を読んでおいた方が出演者の話が楽しめるだろうと思い、一夜漬けですが、田村隆一の詩集を読みました。

抒情詩が伝統だった日本の詩に、それまでになかったまったく新しい風を送り込み、すばらしい勢いで日本の詩の伝統を変えていった荒地と荒地派の詩人たち。天才的な閃きでその運動を起こし、率先していった田村隆一。この詩人の生涯と詩人がなした仕事の重みを思うとき、私の前にはまだ開けられていない門があって、その向こうに想像を絶するような大きな世界が広がっているのを感じます。「まだ開かれていない門があって」は、そんなことを考えていてできた詩です。

田村悦子夫人のご本人しか知らない逸話が面白かったです。田村隆一は朝からワインを飲み(朝食の時にすでにワインを飲んでいたそうです)、あとは夜寝るまで1日中ウィスキーを飲んでいたこととか、1日中パジャマを着てソファに寝そべっていていかにも怠けているように見えたけれど、そのうち突然一挙に詩を書き上げたこととか(しかも、ほとんど推敲しなかったそうです)、最後まで面白い話が尽きませんでした。「田村の人生は本当に美しかったんです。嫉妬もせず、物欲もなく、成功も望まず、ただ詩を書くことが好きでした。」夫人の言葉が印象的でした。

そして、何事にも深い考察をする城戸朱理さんの話も面白かったです。もっと時間があればもっとたくさん聞けたはずなのに・・・と思いました。



帰途

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか

あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ

あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて立ち去るだろう

あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか

言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる

(『言葉のない世界』所収、「田村隆一 ~ 詩人の航海日誌~ 」カタログ所収)

城戸朱理のブログ: イベント告知
トークショー「田村隆一の魅力」

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by hannah5 | 2008-05-29 23:20 | 詩のイベント | Comments(2)

まだ開かれていない門があって   


まだ開かれていない門があって
わたしは茫然と立ち止まる

門の前でひと呼吸おいて
わたしは願う

もう少し待ってください
わたしの中のひとつひとつの細胞が
まだ眠っていますから
わたしの耳はまだよく聴こえないし
わたしの目もまだよく見えません

未熟なわたしは
門のこちら側でもう少しだけ
おままごとがしていたいのです

きっといつか門は開きますね
その時をやり過ごしてしまわないように
きっちりと秒針が刻むその瞬間に
出遅れないように

もう少しここにいます
門の前のこのあたりに
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by hannah5 | 2008-05-29 22:18 | 作品(2004-2008)

ここに   


詩は
実はそうっとしておきたいのです

世の中が
わたしを見つめたり
あなたと話をしたり
わたしたちの間に焦点を合わせて
そこに映しだされるものをきっちりと書き出そうとしているときに
世間の話題にもならない小さなプライベートな片隅の出来事は
やがて消えてゆく朝露の一滴ほどの重みがあればよいと思うのです

仕事をするときも
社会の現象を論じるときも
ミーティングで結論を出すことが困難な議題を話し合っているときも
家族の世話に明け暮れているときも
人々との繋がりと
その結び目から発生する義務と責任という約束事を果たしていくことで
わたしは共同体の中の自分の定位置を確認しています
そういうときのわたしは
あなたが見つけることのできるわたしであり
まぎれもなく社会とともに動いているわたしなのです

詩は
けれど
あなたが見ていないときに
息と息の間のかすかな差異から
霧のように立ち昇るもの
魂の片隅からこぼれおちる小さな欠片
あなたが知らないわたしの中の霞ほどのものです

だから
決して真正面から見つめないでください

世間が寝入ってしまう今頃
誰にも気づかれないように扉を開き
言葉をひとつ
ここに置いていくことにしています
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by hannah5 | 2008-05-28 23:53 | 作品(2004-2008)

私の好きな詩・言葉(124) 「故郷にて死にかける女子」       (最果 タヒ)   


吐く息がよだれだったわたしをあ//
いせるか頭上に鳥の巣が出来ている朝
がきているわたしは目玉焼きを欲する
がバランスからいうとおきあがること
は不可/能だ小鳥はまだ飛べない//

かあ
かあ
 カラスが部屋中を跳びまわっている
羽 はわたしの髪だった気がする
かあ
かあ
 わたしの十年前の声だった気がする

 雨
の 降る中で
こ こ
 こどもか きみは
           こどもがいた

 てのひらに
とけた あめと
 とけた チョコレイトと
 とけた 傘

 にぎって わたしになげつけたわたしになげつけたわたしになげつけたつけたつけたつけ
た !
 きみは・・・・・・
               わたしは言いかける
 皿を洗っている 間は
手が裂けたことに気付かないのだ
 マッチが部屋を訪れると
 おそれる きみ
     わたしは隠れる
タンスの中に
     マッチ

        太陽から逃げてきたらしい

 
 冬と
 夏 のあいだをおよぐ さかな
がたべたい
    まぐろ が言う
       わたしは
まぐろがたべたい

神戸の入り口に 地獄の絵図を飾る
わたしのあいしたひとはここにしかいませんから
                 (だれもこないでこないでこないで)
                          (で    で   で)
 と
      さけぶ
それしかできないわたしは
        きっとここから追い出される


(『グッドモーニング』から)

ひと言
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by hannah5 | 2008-05-25 23:57 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

終 電   


こうして夜は
脂の浮き出た疲労と
抜け殻になった睡眠にもまれて帰ってきた

片隅に座るのは
終止符を打つためのいつもの儀式

一篇の詩が
わたしの目の前で黒光りしている
ごきぶりのようにヒゲを振り振り
疾走していった

一瞬の狂気と正常

振り子が二つの間をゆっくりと往復している
   狂気に所属している
   正常に所属している
   狂気に所属している
   正常に所属している

わたしの所属が
決まらない
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by hannah5 | 2008-05-23 23:56 | 作品(2004-2008)

ごめんなさい   


昨日書いた「アドレッセンス 5」は、大幅に訂正し、某所に送ることにしました。
よって、非公開とさせていただきますので、悪しからずご了承ください。

けっこう面白い出来になりましたので、自分でも8割がた満足です。
あとの2割は、言葉とイメージがもっと飛躍すれば満足度が上がるのですが、
今のところはこれでもぎりぎりの線です。

はんな
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by hannah5 | 2008-05-21 23:51 | ご挨拶 | Comments(0)

アドレッセンス 5   


裸でいるということと
失うということが
わたしだった日の
あからさまな呼吸は紅くて
どこへ向かっているのか

飛び出すのどちんこを振り絞って
どうどうと思いつめる針先が
胸をちくちく突き刺し
生きている意味なんかをしらべてみる

このまま歩いていけばきっといつか本流に出遭うかもしれないし
そうすれば飛び込むことも可なんだと
得たいの知れない不安材料を抹消するほどのショーライを思っている

酸欠状態の呼吸を繰り返し
中心で必ず突き抜けるはずなんだけどと勘をたぐり寄せて
もう少し
もう少し
あそこにあるその、
名づけようのないそれを越えるまではもう少し
ひたすら心拍数が充血していく

   (註)中心とは:-
      たとえば桃には中心線が走っていて
      中心線を見極めて彫っていくと
      彫刻にバランスが出てくるような
      要するに中心があるから
      そのまわりを覆っているものは
      収まりよく定位置につけるというもの

それを目ざして
わたしは日夜遠吠えのように呼びつづけている

あなたは素敵すぎて
愛するよりもちゃっかりとうなずいて
ふらら
添い寝したくなるほどそのものなんですね
くるくるとかきまわしているから
こんなにも生っぽくて
こんなにも見せかけだらけで
嘘つきで
いやらしいんですよ

あなたとわたしは
親指と人差し指みたいな関係なんです

今日は寝入ったばかりのアイツを
吹き飛ばしてやりました 
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by hannah5 | 2008-05-20 23:45 | 作品(2004-2008)

うつろいゆく時のながれに   


あなたが固くなっていくのを
どうやって止めたらいいか
わからない

あなたが少しでも柔らかくなればいいと思って
叩いたり引っ張ったり
捻ったり折り曲げたり引っ掻いたりしているけれど

あなたは破れもせずに
そのまま毛糸玉みたいに丸まってしまった
まん丸く
これ以上丸くならないくらいに丸くなってしまって

それからなんだか情けないような声が漏れてきて
   
             ・・・・・・
                    ・・・・・・・・・・
    ・・・・・

ため息なのか何なのかよくわからない
そんな声聞いたことなかったし
今までとどこか違うし

覇気がないというか
生気がないというか


あなたのことは放っておきたかった
                       本当はね

でも気になるからまだここにいる

いつまで?
      いつまで?
            いつまで?
                  いつまで?
                        ・・・・・・・?

いつも
いつも聞いてしまう
けれど返事は返ってこない

答えなんかないんだね
きっと

叩いたり引っ張ったり
捻ったり折り曲げたり引っ掻いたり
何回もやっているうちに
ぼきりと折れる音がした
それは二度と修復することが不可能な感じの音だった

折れる音は前にも聞いたことがある
けれど、こんなに大きな音を聞いたのは初めてだった


長い間
あなたの味方をしてくれていた人が
遠いところへ行くために旅支度をしている

あなたはいかにも心細そうに
暗い顔をしてぼそぼそと低い声で呟くように話す
踏ん張っていた足元が
いつのまにか蟻地獄に呑まれていく
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by hannah5 | 2008-05-18 23:35 | 作品(2004-2008)

五月陽   


         上京せる弟不二男と大井町駅に会ふ


駅前の五月陽眩し相逢へばともに歩めり馴染みなき街を


骨肉のやさしさのみが見ゆるゆゑ雑然と続く街馴れがたく


柔和なる笑顔を向けぬ報はれぬ賃金交渉に疲れたりと言ひて


アーケード逸れたる路地の小料理屋午(ひる)は乾ける戸を閉ざしたり


此処に生くるも人のなりはひしらじらと午は乾けり飲食(をんじき)の町


改札口に後姿(うしろで)見おくる土ながら筍重きを提げきてくれし



                                   (小浪歌集 『水音』 より)

ひと言
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by hannah5 | 2008-05-16 23:50 | 『水音』 | Comments(4)

大らかな理解のあり方   


あなたのことがもっとよく知りたいのに
あなたとは正反対の道を
かなり遠回りをして歩いている

(だって、あなたは
(空を映し出すことができるほど大きいから

得体の知れないその大きさに茫然としながら
それでもやはり私には遠回りが必要で
なぜなら遠回りは甘い味がするし
いつか甘味が限界に達して
辛い味が本当に欲しくなるまで
甘味を舐めていたい

そこで一つの質問。
それらすべてはあなたを知るための助走となりうるか

道を外れて歩いている
という目眩にも似た不安感が
薄い衣のようにたなびいている

あなたの所へ到達するには
まっすぐな一本の道があれば
本当は遠回りなど必要ないのかもしれない

あなたのまわりで散り散りになっている暗号を
拾い集めて繋いでいくと
見えてくるのはまぎれもなく
あ・な・た

そのようにしてわたしは
互いに似ても似つかない無数の暗号を
集めては糸に通している

今日という日が新鮮なうちに
できるだけ多くの暗号を集めておこう
いつかその日が来たときに
想像以上の威力を発揮してくれるだろうから

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by hannah5 | 2008-05-14 23:59 | 作品(2004-2008)