<   2009年 04月 ( 30 )   > この月の画像一覧   

二重写し   


夕食が終わって
食後のコーヒーをすすりながら
窓の外を見る

窓ガラスの外には
生垣がきれいに刈り込まれ
石灯籠が五メートルおきに配置されている
石灯籠と石灯籠の間には
建物の高さまで成長した木が等間隔に植えられている

窓ガラスの内側に
室内の灯(あか)りが点、点、と灯(とも)る
その灯りに向こうの家の灯りが小さく
点、点、と重なる


ずっと一人だった
すっかり暗くなった窓ガラスの向こうに
うすぼんやりとした街が広がっていて
室内のテーブルや灰皿やコーヒーカップが
灯りのように点々と灯っていた
それらをひとつずつ目でなぞりながら
一人でいることが永久に続いていくような
窓ガラスに灯る灯りが
夜の中から決して消えることがないような
しびれるような一人を抱えていた

あの人を待っていたわけではなかったけれど
あの人を待つという大義名分を作らなかったら
みぞおちに落ちてくる説明のつかない震えも
断続的に体の芯から湧き上がってくる悪寒も
すべて窓のせいにして
じっと坐っていることはできなかっただろう


今夜も
灯りが点、点、と
にじんだまま停止している
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by hannah5 | 2009-04-26 23:55 | 作品(2009~)

詩織の庭   


いろいろな所で発表した作品をひとつにまとめてみました。
しばらく放置していた詩織の庭を整理して、
入選・佳作作品や処々で発表した作品を収めてあります。
詩織の庭

キリスト教関係のブログが作りたくて始めた詩織の庭ですが、
いずれきちんとした形で作り直したいと思っています。


はんな
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by hannah5 | 2009-04-25 17:40 | ご挨拶 | Comments(2)

村ぐらし Ⅱ   


緑の中から
あふれてくる風が
歩くわたしを
吹きぬける

ここまではきのう、
ここからはきょう、と
線を引いて歩いている
きのうまでの
切り傷だらけにした時間は
歩いていけば
治るはずだから

ゆるゆると流れていた季節の
やわらかな気分に会いたくて
風の中を歩きつづける

(どのくらい歩けば)
(あの頃の気分に会えるのだろう)

あの頃は
季節がぼんやりとしていた
おおからでつつましく
切り傷があることさえ
知らなかった

(ここまではきのう、)
(ここからはきょう、)

ごうごうと流れる川が
生い茂った草の下から
立ちのぼる
草の中に足首を沈めて
ゆるやかな勾配を
のぼっていく

頂上近く
風が透明に
変わりはじめる

夢のように
未知の暮らしを探しつづけたあの頃が
ふっと風の中にあらわれる

足をのばし
手をのばし
風の中のその奥の
はるかな深みへ入っていく

(ここからはきょう、)

似ているかたち
似ているいろ

けれど
線の向こうのきょうは
きょうの厚さと
きょうの重みをもち
うしろを振り向かず
あの頃の気分を映しださない


(旋律22号所収)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:51 | 投稿・同人誌など

村ぐらし Ⅰ   


空のてっぺんで
鳥が鳴く
雨のあがった空の中から
しみわたるように鳴く

その瞬間
地上の汚れた争い事も
脂にまみれた疲労も
出口の見えない苦しみも
すべて小さく丸まって
落ちていった

空を渡り
空に舞い
空を啄み
空で休む
小さな鳥よ

インターネットもハイテクも
宇宙開発も光ファイバーも
私たち人間の便利のいっさいを知らずに
大昔からずっと変わることなく
同じ音色で鳴き続けてきた鳥よ

私たちがお互いの競争に一喜一憂している間に
おまえたちは夜が白むころ起きだし
澄んだ声を響かせ
晴れた日には空から空へと渡り
雨が降れば木々の間で翼を休め
日暮れとともにねぐらに帰り
巣にこもり
ひなを育て
雨あがりの日には
今日と同じように
空の青さを染めて鳴く

私たちが進化と呼んで享受してきたものは
地上で小さくなってうごめいている


(長野県諏訪郡原村にて)


(旋律22号所収)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:49 | 投稿・同人誌など

アドレッセンス 2   


そういえば
わたしも歩いていた
ギザギザの道たち

とんがったり
つんのめったり
激痛にうめいたり
今ならひと言で形容できるそれらが
あの時はそのどれでもなくて
ひたすら分解しては組み立て
組み立てては分解し

そんなふうに
先回りして言われてしまうことが
恐怖でした
       本当は

愛してくれなくてもいいから
わたしを見てください
わたしそのものをちゃんと見てください
あなたが理想とするわたしは
この世には存在しないのですから

わたしには
わたしなりの
息の仕方があるのです

鳥肌のぶつぶつ
潰れたままのしわくちゃ
あなたに見つからないように
あなたのいない所で
わたしを広げる

突然駆け出す
突然転倒する
もんどりうって仰向けに
それでもかまわなかった

何億という細胞が
あなたに奪われてしまった
その中のひと粒を
今夜 わたしは取り返しにいく


(旋律21号所収)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:48 | 投稿・同人誌など

アドレッセンス 1   


長い
 ながい
  アドレッセンス

伸ばせるだけ
  のばして

固い殻はいつまでも割れない
永久に孵化しない卵を抱いて
じっと温め続ける

見知らぬ街に住むことは
スポーツをするより易しく
さざ波も立てないまま
眠り目覚め幾日も
眠り目覚め季節は変わらず

逃げてきたわけではなく
逃げていくわけではなく
殻が割れないから
断崖から落としてみたくなっただけ
ひと思いに絶壁の下の荒波に向かって

長い彷徨のあとに
うつうつとした霞たなびく
一寸先の曖昧な表情が読み取れないまま

どこへ行くの?
どこまで行くの?

何かをすることは何もしないことに等しく
何もしないことは何かをすることに等しく

新しい街はいつまでも知らん顔
慣れない土地の慣れない暮らしに忍び込み
街のはずれから街のはずれまで移動する
新しい発見と古い記憶が同居して
そろそろ子どもの暮らしを脱ぎはじめるころ
そろそろ大人の暮らしを着はじめるころ

うつうつとした霞がぼんやりと街を流れる

遠い昔と近い未来が混ざり合い
混ざり合わされる

長く
  ながく伸びたアドレッセンス
    伸ばせるだけのばして


(旋律21号所収)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:46 | 投稿・同人誌など

あ、   


あ、
の発見があった
ごはんの仕度をしていた時
突然ゴムが切れたみたいに
パチン!

一瞬、部屋中に電気が流れて
ビリビリと視界が破れた
あ、あ、あ、
理解が雪崩のように落ちてきた

その途端に
あっちこっちに散らばっていたパズルのピースが
いつのまにか行儀よく収まって
一枚の絵になっていた
なるほど、これとこれは隣同士だったか
それとそれは上と下だったんだ

二千五百ピースのジグソーパズルを持っている友人がいる
全部組み立てると落穂拾いの絵になる※
もうずいぶん長いことパズルを組み立てようとしているが
小さなピースの色や形はどれも似ていて
なかなか進まない
あのパズルが落穂拾いになるのは
たぶん、十年先か

私の
あ、
はまだ百ピースくらい
落穂拾いの迫力になるには
あ、
と言ったまま
何回も雪崩に遭わなければならない


ごはんが出来た


今夜は
あ、
が響いて
まだごはんが食べられないでいる



※ミレーの『落ち穂拾い』


(旋律20号所収)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:44 | 投稿・同人誌など

かさぶた   


地表三十センチのところにできたかさぶたを
丁寧に
ていねいに撫でつける
荒っぽくいじると
かさぶたは剥けてしまうから

かさぶたを大事に取っておいて
その下の世界を
ぼんやり眺める

切り傷、
と決めつけてしまうには惜しいような
日常が霧のように
しゅん、と

なぜだか最近
子どもの頃にひどく叱られたことと
古い校舎の壁に当たっていた静かな夕日が
記憶の底から交互に浮かんできて

かさぶたを
しきりといじくってみたりする

うまく処理できなかった怒りが
ふつふつとこみあげてきて
本当は優しくしたいのに
意地悪なことばかり言ってしまう

必死に抵抗する人は
じりじりと後ずさり
隅っこに追いつめられて

(かさぶたを剥かないで)

力なく見あげた眼の底に
やつれたやり切れなさが沈んでいる

三十センチの間に漂っている
薄墨色の思いやりが
言葉になりきれずに
たたずんだまま


(旋律20号所収)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:42 | 投稿・同人誌など

愛とか   


同情が
   ふくふく
湧いてくる
       心臓の付け根あたり
涙にまみれた
チープっぽい熱
そうだよね、
わかるんだよね、って
カナシミが溢れて
            こんこん
  と湧いてくる

抱きしめるほどに想い
              思い
                 オモイ
キミの人生をなぞって
ゆるゆると流れる血を浴び
ゆるゆると思い焦がれて
わたしのイノチの
わたしの背丈ほどの
両腕に抱えきれいない厚みと
                  熱みと

一度は泣いたよ
絞るようにして
本当に命が絞りあげられて
残り滓になって
かすかすになってしまった心で
やっぱり泣いた
泣くとね
響くんだよね
からだの中の基盤がぶっこわれそうになる

自分の終わりを告げるものは何だろう
ニンゲンそう簡単にこわれるもんじゃないんだけどね
と思っていたことが
 つんつん、
   つつつん、
つんのめる


(詩と思想2009年4月 佳作)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:40 | 投稿・同人誌など

押し胸   


            ノートに書きつける
              平たくなった胸の内


生の花を新聞紙の間に入れて
上から重石を置いて平たくつぶす
押し花というものだけれど
これはさしずめ
押し胸

しわや亀裂や切り傷やでこぼこした胸の内を
そのままぺったりと白いノートの上に置く
上から手のひらでぎゅうぎゅうと
二、三度押さえつけ撫でつけると
胸の中から
んぎゅううう・・・
という音が漏れてきて
血のいろや青白いいろや泥のいろが
ぽつぽつと紙の上に滲み出てきた

(毛虫をつぶすとこんな感じかしらん)

ぼんやりと見とれて考え事をしていた

青い汁の出た
毛虫のつぶれたのなんて気持が悪くて
いつもは見たくもないのに
なぜだか今日は
つぶれた胸を見ても平気だ

紙の上に点々とついている赤や青や茶の
生々しい色が
冷めた目をして空を見ている


(詩と思想2009年3月 佳作)
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by hannah5 | 2009-04-25 13:38 | 投稿・同人誌など