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第18回丸山薫賞   


第18回丸山薫賞に本みち子さんの『夕焼け買い』(土曜美術社出版販売)が決定、受賞されました。この詩集は詩と思想4月号で私が書評を書かせていただいたもので、その詩集が賞を受賞されたことに書評を書かせていただいた者として大変光栄に思います。

山本みち子さん、受賞おめでとうございます。

第18回丸山薫賞

詩と思想
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by hannah5 | 2011-10-31 00:59 | 投稿・同人誌など | Comments(0)

日本の詩を読む V   


昨夜は「日本の詩を読む」の講義でした。取り上げたのは堀川正美の『太平洋』でした。

一人の詩人が一人の詩人に多大な影響を与え、そこから多くの若い詩人たちに限りない影響を与える。吉増剛造さんの若き日の愛読書が堀川正美の『太平洋』だったそうですが、どんな思いで吉増さんはこの詩集を読み続けていらしたのか。詩から立ち上る魂の息みたいなものが一人の若き詩人の心の深みに下りて根を張る、そして多くの若者たちの作品に変革と新しい息を吹き込む-すごいことだと思います。

何篇か読んだ中で、私の中で特に響いた作品2篇、「声」と「新鮮で苦しみ多い日々」をここに置いておきます。





たれさがった空のへりがゆれてはねあがる
そして空はときに
空であることをたしかめるために
そのへりをひきあげている
そしてまたおりてきて
さらにとおくのぼっている

その熱のなかでつくられた
熱よりも熱いものが
たちあがって
しだいにおしはなれてゆく天と地のあいだを
たえずすれすれにあるいている そして
どんな熱にも死ぬことのない鳥らが
まわりをはばたいて
ぐるぐるまわっている

けものたちを舌でなめしたそのひとが
われわれの
父や母だったとはかぎらない
そして街の壁が
そとへむかって割れて
ばらばらとくずれおちるとき
その声が
おまえらから
わたしにむかって
しずかにひろがってくる





新鮮で苦しみ多い日々


時代は感受性に運命をもたらす。
むきだしの純粋さがふたつに裂けてゆくとき
腕のながさよりもとおくから運命は
芯を一撃して決意をうながす。けれども
自分をつかいはたせるとき何がのこるだろう?

恐怖と愛はひとつのもの
だれがまいにちまいにちそれにむきあえるだろう。
精神と情事ははなればなれになる。
タブロオのなかに青空はひろがり
ガス・レンジにおかれた小鍋はぬれてつめたい。

時の締切まぎわでさえ
自分にであえるのはしあわせなやつだ
さけべ。沈黙せよ。幽霊、おれの幽霊
してきたことの総和がおそいかかるとき
おまえもすこしぐらいは出血するか?

ちからをふるいおこしてエゴをささえ
おとろえてゆくことにあらがい
生きものの感受性をふかめてゆき
ぬれしぶとく残酷と悲哀をみたすしかない。
だがどんな海へむかっているのか。

きりくちはかがやく、猥褻という言葉のすべすべの斜面で。
円熟する、自分で歳月をガラスのようにくだいて
わずかずつ円熟のへりを噛み切ってゆく。
死と冒険がまじりあって噴きこぼれるとき
かたくなな出発と帰還のちいさな天秤はしずまる。

(堀川正美詩集『太平洋』より)
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by hannah5 | 2011-10-22 15:04 | 詩のイベント | Comments(0)

日本の詩を読む V   


野村喜和夫さんの講義による「日本の詩を読む」シリーズ5回目が昨日より始まりました。今回のテーマは「戦後の名詩集を読む」です。

なるべく今まで取り上げなかった詩人をということで、今回は堀川正美、岡田隆彦、那珂太郎の3詩人がリストに加わりました。第一回目の昨日は吉岡実の『僧侶』(第9回氏賞、1959)でした。

1996年、筑摩書房より『吉岡実詩全集』が発行されましたが、面白い逸話を聞きました。全詩集が発行されてから、1篇の詩が抜けていたことが発見されました。詩が抜けていたことを発見した人は誰だかわかりませんが、たくさんある作品の中で1篇抜けていたことを見つけた人はよほど吉岡実の作品に詳しい人だったのでしょうね。筑摩書房は慌てて抜けている作品を入れて刷り直したそうです。作品が抜けていると、謝罪訂正分とともに抜けている作品を栞に印刷して本に挟んで出すのが通常のやり方なのだそうですが、筑摩書房はそれをせず、その1篇を加えて刷り直したそうです。今では作品の抜けた全詩集もプレミアとして価値があるそうです。

時間の関係から、教室では『僧侶』から「苦力」という作品を1篇だけ読みました。


【講義内容】

1. 10月7日(金):  吉岡実『僧侶』(1958)
2. 10月21日(金): 堀川正美『太平洋』(1964)
3. 11月4日(金):  岡田隆彦『史乃命』(1964)
4. 11月18日(金): 那珂太郎『音楽』(1965)
5. 12月2日(金):  谷川俊太郎『コカコーラ・レッスン』(1980)
6. 12月16日(金): リクエストに応じて
(19時00分~20時30分)


                              *****


苦力


支那の男は走る馬の下で眠る
瓜のかたちの小さな頭を
馬の陰茎にぴったり沿わせて
ときにはそれに吊りさがり
冬の刈られた槍ぶすまの高粱の地形を
排泄しながらのり越える
支那の男は毒の輝く涎をたらし
縄の手足で肥えた馬の胴体を結び上げ
満月にねじあやめの咲きみだれた
丘陵を去ってゆく
より大きな命運を求めて
朝がくれば川をとび越える
馬の耳の間で
支那の男は巧みに餌食する
粟の熱い粥をゆっくり匙で口へはこびこむ
世人には信じられぬ芸当だ
利害や見世物の営みでなく
それは天性の魂がもっぱら行う密儀といえる
走るうまの後肢の檻からたえず
吹きだされる尾の束で
支那の男は人馬一体の汗をふく
はげしく見開かれた馬の眼の膜を通じ
赤目の小児・崩れた土の家・楊柳の緑で包まれた柩
黄色い砂の竜巻を一瞥し
支那の男は病患の歴史を憎む
馬は住みついて離れぬ主人のため走りつづけ
死にかかって跳躍を試みる
まさに飛翔する時
最後の放屁のこだま
浮ぶ馬の臀を裂く
支那の男は間髪を入れず
徒労と肉欲の衝動をまっちさせ
背の方から妻をめとり
種族の繁栄を成就した
零細な事物と偉大な予感を
万朶の雲が産む暁
支那の男はおのれを侮蔑しつづける
禁制の首都・敵へ
陰惨な刑罰を加えに向う

(『僧侶』より)

講師プロフィール
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by hannah5 | 2011-10-08 16:54 | 詩のイベント | Comments(0)