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日本の詩を読む VIII その3   


11月26日(月)は「日本の詩を読む」VIIIの3回目の講義でした。今回は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を中心に講義が行われました。

私自身はどうも宮沢賢治が苦手で、小学校だか中学校だかで国語の授業の一環として賢治の作品を読んだことはありますが、自分で読んだことはほとんどありません。(それでも『注文の多い料理店』を半ば怖いような気持ちになりながら、2、3回読んだ記憶はあります。)なぜ苦手かと言えば、賢治の作品に現れるどこか東北の暗さと重さがもうひとつ馴染めないからです。それで夕べは野村さんの講義を冷めた気持ちで聴いていました。でも、距離を置きながら聴いていると割合多くの発見があって、それはそれで収穫でした。『銀河鉄道の夜』は童話ではなく詩であるという野村さんの説-確かに詩と考えて読んだ方が、作品が果てしなく広がっていくようで面白いかもしれないと思いました。

いろいろな賢治研究や賢治論があるようですが、賢治は案外、自分の作品が将来評論や賢治論の対象になることなど無頓着で、ストイックに、しかし楽しみながら作品を書いていたのかもしれません。

教室で引用された参考文献は『オルフェウス的主題』(水声社)(野村喜和夫)、天沢退二郎の『銀河鉄道の夜』論文、『オルフェウス神話』、『文学空間』(モーリス・ブランショ)、使用したテクストは筑摩書房版の『銀河鉄道の夜』でした。

次回の講義は中原中也です。
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by hannah5 | 2012-11-27 16:57 | 詩のイベント | Comments(0)

書燈社展   


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11月8日から11月14日まで、上野の東京都美術館で開催されていた「書燈社展」の「企画展 横浜詩人会とのコラボ展」に、最終日の昨日やっと行くことができました。

会場に着くと、ものすごい数の書の展示に圧倒されるようで、ふだん書道とは縁遠い私はどうにか自分の作品を書いてくださった方の作品を見つけることができました。書いてくださったのは鈴木美千枝さんという方で、もしかしたら私の詩は書道として書きにくかったのかもしれないと思ったりしました。(書にして趣のある詩が見やすいようです。)ともあれ、拙作を書いてくださってありがとうございました。

書燈社展に出した作品は「魚屋のさかな」で、実際に鈴木美千枝さんが書かれたのは「切ないヤツだ」以降の部分です。


魚屋のさかな


魚屋のさかなは
もうじき食べられることを知っているはずなのに
なぜかひとなつこい
目をぎょろぎょろさせながら
私が行くところにどこまでも
いけすの中をついてくる
あっちへ行くとあっちへ行く
こっちへ来るとこっちへ来る
そのたびに上唇をふわふわさせる

無表情だったさかながかすかに笑った
目に愛嬌がある
それから尻尾を小さく振った
さかなは空気のジェットに顔をつっこんで
口をぱくぱくさせながら一回転してみせた
運命の短さに嘆くこともなくおどけてみせる

切ないヤツだ
今晩さしみにされてしまうかもしれないというのに
何しろこのいけすに放されたさかなで
二日といたのを見たためしがないからね

さかなはしばらく私のそばでゆらゆらしていたが
やがてきびすを返してあっちへ行ってしまった


あいつは今ごろ誰の皿に乗っているんだろう
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by hannah5 | 2012-11-15 15:47 | 詩のイベント | Comments(0)

日本の詩を読む VIII その2   


11月12日(月)は「日本の詩を読む」VIIIの2回目の講義でした。この日は中原中也を中心に講義が進められました。今も変わらないのかもしれませんが、ひと昔前、文学を志した人には早熟で秀才が多かったように思います。中原中也も例外ではなく、県立山口中学に入学した当時は12番という優秀な成績でした。しかし、詩に興味を持ち出してから一気に成績が下がり、落第して退学せざるを得なくなったそうです。また、17歳で3歳年上の長谷川泰子と同棲するなど、恋愛においても早熟でした。「吐く息のひとつひとつが詩になる」と言っていた中也。今回読んだ作品は「盲目の秋」でした。


盲目の秋

   I

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限の前に腕を振る。

その間(かん)、小さな紅(くれなゐ)の花が見えはするが、
  それもやがては潰れてしまふ。

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限のまへに腕を振る。

もう永遠に帰らないことを思つて
  酷薄(こくはく)な嘆息するのも幾たびであらう……

私の青春はもはや堅い血管となり、
  その中を曼珠沙華(ひがんばな)と夕陽とがゆきすぎる。

それはしづかで、きらびやかで、なみなみと湛(たた)え、
  去りゆく女が最後にくれる笑(ゑま)ひのやうに、

厳(おごそ)かで、ゆたかで、それでゐて佗(わび)しく
  異様で、温かで、きらめいて胸に残る……

      あゝ、胸に残る……

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限のまへに腕を振る。

   II

これがどうならうと、あれがどうならうと、
そんなことはどうでもいいのだ。

これがどういふことであらうと、それがどういふことであらうと、
そんなことはなほさらどうだつていいのだ。

人には自恃(じじ)があればよい!
その余はすべてなるまゝだ……

自恃だ、自恃だ、自恃だ、自恃だ、
ただそれだけが人の行ひを罪としない。

平気で、陽気で、藁束(わらたば)のやうにしむみりと、
朝霧を煮釜に填(つ)めて、跳起きられればよい!

   III

私の聖母(サンタ・マリヤ)!
  とにかく私は血を吐いた!……
おまへが情けをうけてくれないので、
  とにかく私はまゐつてしまつた……

それといふのも私が素直でなかつたからでもあるが、
  それといふのも私に意気地がなかつたからでもあるが、
私がおまへを愛することがごく自然だつたので、
  おまへもわたしを愛してゐたのだが……

おゝ! 私の聖母(サンタ・マリヤ)!
  いまさらどうしやうもないことではあるが、
せめてこれだけ知るがいい ――

ごく自然に、だが自然に愛せるといふことは、
  そんなにたびたびあることでなく、
そしてこのことを知ることが、さう誰にでも許されてはゐないのだ。

   IIII

せめて死の時には、
あの女が私の上に胸を披(ひら)いてくれるでせうか。
  その時は白粧(おしろい)をつけてゐてはいや、
  その時は白粧をつけてゐてはいや。

ただ静かにその胸を披いて、
私の眼に副射してゐて下さい。
  何にも考へてくれてはいや、
  たとへ私のために考へてくれるのでもいや。

ただはららかにはららかに涙を含み、
あたたかく息づいてゐて下さい。
――もしも涙がながれてきたら、

いきなり私の上にうつ俯して、
それで私を殺してしまつてもいい。
すれば私は心地よく、うねうねの暝土(よみぢ)の径を昇りゆく。

(詩集 『山羊の歌』 より)
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by hannah5 | 2012-11-13 14:47 | 詩のイベント | Comments(0)

歴程祭   


11月11日(日)「未来を祭れ」と題して歴程祭が行われ、パーテイ会場にて第50回藤村記念歴程賞が授与されました(於ホテル・メトロポリタン・エドモント)。受賞したのは野村喜和夫さんの 『ヌードな日』 (思潮社)、『野村喜和夫詩選集・スペクタクルそして豚小屋』 (Omnidawn Publishing 2012年度最優秀翻訳書賞)、『難解な自転車』 (書肆山田)の3書です。尚、歴程新鋭賞は該当詩集なしでした。

講師としてさまざまな場所で教え、諸々の雑誌等のインタビューや座談会に出、朗読会も定期的に行い、事あるごとに外国で開催される詩祭に招待され、もちろん詩や評論を精力的にこなされている野村喜和夫さんのこのエネルギーは一体どこから来るのだろうかと思うほど、すごい仕事の量です。それだけでなく、たびたび賞を受賞されていて、尚かつ現代詩の最前線を歩き続けておられる。野村さん個人とお話していると肩肘張ったところなどひとつもなく、普通の私たちが普通に世間話をして居心地の良い方です。(だから、皆喜んで二次会へ行ったりするんだけど。)そんな野村さんが歴程賞を受賞されて、私たちは自分の事のように幸せな気持ちになりました。歴程賞受賞おめでとうございます。


【プログラム】

開会の言葉                       新藤凉子

第50回藤村記念歴程賞          司会  田村雅之
  選考経過報告                   粕谷栄市
  藤村記念歴程賞贈呈               鈴村和成
  野村喜和夫の仕事について           安藤元雄
  受賞者挨拶                     野村喜和夫
  花束贈呈                       川口晴美

第23回歴程新鋭賞
  贈呈対象 なし 選考経過報告         井川博年

乾杯のスピーチ                     粟津則雄
閉会の挨拶                      池井昌樹
(敬称略)


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自作詩を朗読する野村喜和夫さん
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by hannah5 | 2012-11-12 15:21 | 詩のイベント | Comments(0)

日本の詩を読む VIII その1   


野村喜和夫さんの講義による「日本の詩を読む」の第8回目が11月5日(月)から始まりました。今回取り上げるのは宮沢賢治と中原中也です。1回目の昨日は宮沢賢治の「春と修羅」を読みながら、賢治の文学的姿勢を中心に講義が行われました。興味深かったのは賢治は何度も推敲を繰り返した人で、すでに出版された『銀河鉄道の夜』に4回も手を入れて推敲したそうです。しかし、4回目の推敲の最中に亡くなってしまい、最後の推敲は未完の草稿となっています。推敲を繰り返したため最初に書いた固有名詞が削られているものもあり、初稿は岩波文庫(谷川徹三編)に、最終稿は筑摩書房(入沢康夫、天沢退二郎)に校本全集として入れられています。



春と修羅
(mental sketch modified)


心象のはひいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲(てんごく)模様
(正午の管(くわん)楽(がく)よりもしげく
 琥珀のかけらがそそぐとき)
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾(つばき)し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(風景はなみだにゆすれ)
砕ける雲の眼路(めじ)をかぎり
 れいろうの天の海には
  聖玻璃(せいはり)の風が行き交ひ
   ZYPRESSEN  春のいちれつ
    くろぐろと光素(エーテル)を吸ひ
     その暗い脚並からは
      天山の雪の稜さへひかるのに
      (かげろふの波と白い偏光)
      まことのことばはうしなはれ
     雲はちぎれてそらをとぶ
    ああかがやきの四月の底を
   はぎしり燃えてゆききする
  おれはひとりの修羅なのだ
  (玉髄の雲がながれて
   どこで啼くその春の鳥)
  日輪青くかげろへば
    修羅は樹林に交響し
     陥りくらむ天の椀から
      黒い木の群落が延び
       その枝はかなしくしげり
      すべて二重の風景を
     喪神の森の梢から
    ひらめいてとびたつからす
    (気層いよいよすみわたり
     ひのきもしんと天に立つころ)
草地の黄金をすぎてくるもの
ことなくひとのかたちのもの
けらをまとひおれを見るその農夫
ほんたうにおれが見えるのか
まばゆい気圏の海のそこに
(かなしみは青々ふかく)
ZYPRESSEN しづかにゆすれ
鳥はまた青ぞらを截る
(まことのことばはここになく
 修羅のなみだはつちにふる)

あたらしくそらに息つけば
ほの白く肺はちぢまり
(このからだそらのみぢんにちらばれ)
いてふのこずゑまたひかり
ZYPRESSEN  いよいよ黒く
雲の火ばなは降りそそぐ



                              *****



【講義予定】
1.11月5日
2.11月12日
3.11月26日
4.12月10日
5.1月7日
6.1月21日
(会場は淑徳大学池袋サテライトキャンパス
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by hannah5 | 2012-11-06 19:32 | 詩のイベント | Comments(0)

フォルテピアニシモ vol.8 ~rebirth~   



                 遅すぎることはない いつの日もあなた自身が約束だから


文化の日の昨日、伊津野重美さんの朗読ライブに行ってきました(場所は吉祥寺のStar Pine’s Cafe)。私にとっては2回目の伊津野さんの朗読ライブですが、朗読だけでなく舞台の演出や音楽の使い方など、やっぱり伊津野さんの朗読は聴かせるものがあるなぁと思いながら聴きました。何よりも説明を入れずに作品だけを朗読する演出は、聴衆を言葉そのものと対峙させ、言葉だけが持つエネルギーと創造力に解き放ちました。また、今回はチェロ奏者の森重靖宗さんが参加され、即興演奏で言葉を盛り上げ、独特の世界が広がってこちらもよかったです。


【プログラム】

I

空には空  短歌*
ちいさな炎  詩*
れいこ  詩*
暗い森にいる人に  断章*
サムシング・グレート  詩*
Rebirth  詩*
落鳥の地から  短歌*

II
◇メドレー   チェロ:森重靖宗
『銀河鉄道の夜』より  宮沢賢治
『故郷』より  魯迅
序詩  尹東柱
風景  山村暮鳥
水のなかから水のなかへ  辺見庸
死者にことばをあてがえ  辺見庸
雨ニモマケズ  宮沢賢治
永訣の朝  宮沢賢治
『宗谷挽歌』より  宮沢賢治

III

『<孤絶-角>』より  岸田将幸
冥き雨降るこの星に  短歌*

*伊津野さんの作品



〈出演者プロフィール〉

◇ 伊津野重美(いつの・えみ)

1995年より作歌を、2000年より朗読の活動を始める。
2005年に第一歌集 『紙ピアノ』を風媒社より刊行。
2010年に写真集ataraxia(岡田敦・伊津野重美)を青幻舎より刊行。
詩誌『生命の回廊』発行・編集。
2011年 笹井宏之作品集『えーえんとくちから』Parco出版、編集委員。
2007年より朗読ライブシリーズ「フォルテピアニシモ」を開始する。
伊津野重美さんのHP:paperpiano


◇ 森重靖宗(しげもり・やすむね)

チェロによる独特な即興演奏を行う。
国内外の音楽家、舞踏家、アーティスト等と数多く共演。
2009年にチェロとピアノのソロによる即興演奏で構成されたCD fukashigi を発表。
音楽活動以外にも、写真作品集 photographs をPowershovel Booksより出版。
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by hannah5 | 2012-11-04 23:45 | 詩のイベント | Comments(0)