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日本の詩を読む X 「日本の訳詩集を読む その3」   


11月18日(金)は「日本の詩を読む」の3回目の講義でした。前回に引き続き堀口大學訳の 『月下の一群』 を読みました。今回は前回とは違う詩人の作品を読み、違った観点から詩集にアプローチしました。読んだ作品はレーモン・ラディゲの「軍帽」、ジャン・コクトーの「犬は近くで吠え」と「耳」、ルミ・ド・グウルモンの「毛」、フランシス・ジャムの「哀歌 第十四」、ポール・フォールの「空の色さへ陽気です 時は楽しい五月です」です。

『月下の一群』 には合計339篇の詩が収められていますが、これほど多くの作品を翻訳した堀口大學の才能もさることながら、今よりもずっと詩が愛され、詩集が人々に受け入れられた時代は詩人にとっては幸せな時代だったと言うべきでしょう。





   ルミ・ド・グウルモン


シモオン、お前の毛の林のうちに
大きな不思議がある。

お前は乾草(かれくさ)の匂ひがする、
お前は獣が寝たあとの石の匂ひがする、
お前は鞣皮(なめしがわ)のにおひがする、
お前は簸(ふる)ひ立ての小麦の匂ひがする。
お前は薪(まき)の匂ひがする、
お前は朝毎に来る麺麭の匂ひがする。
お前はくづれた土塀に沿ふて
咲いた花の匂ひがする。
お前は木苺の匂ひがする
お前は雨に洗はれた常春藤(きづな)の匂ひがする。
お前は夕暮時に刈り入れる
燈心草(ゐぐさ)と歯朶(しだ)の匂ひがする。
お前は柊(ひひらぎ)の匂ひがする。お前は蘚(こけ)の匂ひがする、
お前は生籬(いけがき)の陰にある
実り了(をは)って枯れた黄いろい草の匂ひがする、
お前は野芝麻(をどりこさう)とえにしだの匂ひがする、
お前は苜蓿(うまごやし)の匂ひがする、お前は牛乳の匂ひがする。
お前は茴香(うゐきやう)の匂ひがする。
お前は胡桃(くるみ)の匂ひがする。
お前はよく熟(う)れて摘みとられた果物の匂ひがする。
お前は花を一ぱいにつけた時の
柳と菩提樹の匂ひがする、
お前は蜂蜜の匂ひがする、
お前は牧場の中をさまよふ時の
人生の匂ひがする。
お前は土と河の匂ひがする。
お前はいろごとの匂ひがする。
お前は火の匂ひがする。
お前は火の匂ひがする。
お前はいろごとの匂ひがする。
お前は火の匂ひがする。
お前は火の匂ひがする。

シモオン、お前の毛の林の中に
大きな不思議がある。




哀歌 第十四

       フランシス・ジャム


――恋人よ。」とお前がつた、
――恋人よ。」と僕が答へた。

――雪がふつてゐる。」とお前が云つた、
――雪がふつてゐる。」と僕が答へた。

――もつと、もつと。」とお前が云つた、
――もつと、もつと。」と僕が答へた。

――こんなに、こんなに。」とお前が云つた、
――こんなに、こんなに。」と僕が答へた。

その後、お前が云つた
――あんたが好きだわ。」

すると僕が答へた。
――僕はもつとお前が好きだ。」と。

――夏ももう終りね。」とお前が云つた、
――もう秋だ。」と僕が答へた。

ここまで来ると僕等の言葉は、
たいして似てはゐなかつた。

最後にお前が云つた
――恋人よ、あんたが好きだわ......」と、

いかめしい秋の
大袈裟(おほげさ)な夕日をあびて。

すると僕が答へた
――も一度言つてごらん......。」と。
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by hannah5 | 2013-11-25 16:15 | 詩のイベント | Comments(0)