<   2014年 03月 ( 3 )   > この月の画像一覧   

私の好きな詩・言葉(157)「大学四年生」(そらしといろ)   


大学四年生


昨夜、母が私の茶碗を欠いたので
今朝、その代用品として宛がわれたのは
来客用の、薄い肌の白い茶碗だ

窓の外は、たっぷりとした雨雲がじっと黙ったまんまの、六月

居間に用意された、私の分の朝食はいつも広告がかぶさっている
この家で一番遅い朝食をとる
私はいつも一人で朝食をとる
木の椀に温めなおした味噌汁をよそう
白い茶碗に保温された白い飯をよそう
両手に一個ずつ器を持って、六人掛けのダイニング・テーブルの
(四角いテーブルの、向かい合う二辺に三つずつ並んだ椅子の)
片方の真ん中に、着席する
テーブルに窓の虚像が映っているのを見て、
部屋の電気を付け忘れているのに気付いたが、
私一人きりなので消したままにしておこう

広告の下に隠れていたおかずは、
ウィンナーを焼いたやつ(冷えている)
小松菜と油揚げの煮浸し(冷えている)
甘くない玉子焼き三切れ(冷えている)
電気の付いてない今朝の居間にあるそれらはとても
寂れた食堂の食品サンプルのように頑なだったので
全ての皿を、冷蔵庫へしまい込む(用意してくれる母には、申し訳ない)
とりあえず、こげ茶の箸を持って
私はいつもどおりに、味噌汁から口を付ける(妙に泥臭い、しじみ)
そして、あまり触ったことがない、
白い茶碗を左手に持つ

(、どきり)

白いままの薄い肌から伝わる
白い飯の温もり、重さ
左手にちょうど良く収まる大きさ、丸み

(、どきり、どきり)

衝動、的 に、

行儀が悪いと怒られるのは承知の上で、
茶碗の縁に口を付けたくなったので、
冷蔵庫から白い殻の玉子を出して、
それでも白い殻は慎重に割って、
白い飯の上に生卵をのっけて、
右手に持った箸でそぉっと、
黄身に膜を突き破ったら、

衝動、的 に、

まぜるまぜるまぜるまぜるしろみもきみもま
ぜるまぜるまぜるほんのすこしかなしいかん
じがしたのでなみだもまぜるまぜるまぜるま
ぜるぐるんぐるんはしがまわるまぜるまぜる
まぜるまぜるただただみぎてのえんしんりょ
くのままにまぜるまぜるまぜるおしょうゆを
ひとまわりまぜるまぜるまぜるまぜるまぜる
はい、たまごかけご飯

これで、やっと、口付け、られる
白い茶碗の、縁にやっと、口付けられる

少しだけ冷めた茶碗の温度が左手に伝わる
(、どきり、どきり、どきり、)
白一色だった茶碗に生卵の黄色が、滑稽だ
(、どきり、どきり、どきり、どきり、)

いよいよ、
白い薄い肌の丸みを帯びた茶碗の縁に口付け、
くちづけ、て しまう

    あ、
思いのほか、唇に馴染む釉薬の具合に引きずられて、無心
あとはもう、たまごかけご飯をごくごく、ごくごく、飲み込んでしまった

(妙に泥臭い、しじみの味噌汁が冷えている)

中身は空っぽになった、黄色っぽい白い茶碗にもう一度だけ、口付ける(冷えている)
それはもう、
ただの、来客用の、薄い肌の白い茶碗だ

(素晴らしい夢が覚めてしまったあと、
寝起きの布団に染み込んだ体温が蒸発して、冷えた
一組の布団に戻る瞬間、現の朝を感じたのに、
朝食の最中も私は、まだ現にいなかったのだろうか、でも腹は満たされている、黄色い
たまごかけご飯は私の胃袋で黄色い胃液とまざって、まざって、て、て、       )

しじみの味噌汁を流しにたらたら捨てつつ、白い茶碗の黄色い汚れを洗剤で落としつつ、
夢を、下水として処理した気分を、味わう



居間の時計が、午前九時少し過ぎをさした
大学へ行かなければ、大学へ
洗った茶碗を急いで布巾で拭いて食器棚へ伏せて最後に放した右手の人差し指に残った
感触は、

 大学へ行かなければ、大学へ、
貴女のいる女子大学へ行かなければ、女子大学へ、
少し空ろ気味な私の精神を、葉脈の標本にしないために、
貴女のいる女子大学へ行かなければ、女子大学へ行かなければ、行かなければ私は、

 今一度、先ほどの温もりと感触を、唇で思い出しながら、歯を磨いている
洗面所の鏡に映った私は、
鏡の外側で、薄荷の冷たさを肺いっぱい取り込んで、
肺胞の一つ一つに満たして、疑似的な冬の朝の空気を、毎日感じている
既に得た知識を、一生懸命繋ぎ合わせることによって、私は、
(知らないことを知りたい、しりたい、知的欲求をみたしたい、貴女の、あなたのむねに
くちづけて、しらないかんしょくを、しりたいのだ)

 だから私は行かなければ、
大学へ行かなければ、大学へ
貴女のいる女子大学へ行かなければ、女子大学へ

 今日は水曜日だから、ノートもファイルも一冊ずつでこと足りる
とっても軽い茶色のリュックを背負って、二年くらい洗っていない白いスニーカーを
履きながら、玄関の外で梅雨が始まってしまった気配を、
私は、一人で感じている

(私は貴女から、夏が好きだというあなたらしい、藪蚊がすりよってくるほどの、白く燃
え立つかげろうのような気を、こっそり、やぶかのようにもらって、もらって、て、て、)

大学へ行かなければ、貴女のいる女子大学へ、

大学を卒業するまであと、にひゃくきゅうじゅうさんにち、きょうは、ろくがつみっか

   私は、大学四年生

(そらしといろ詩集 『フラット』 より)

ひと言
[PR]

by hannah5 | 2014-03-23 23:23 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

詩×旅 ~ 詩の図書館と旅する詩集 ~   


b0000924_18501275.jpg

高円寺の古書店アバッキオで2月28日から始まった「詩×旅 ~ 詩の図書館と旅する詩集 ~」は連日いろいろなイベントが行われていて、私はその中で知人が出演するリーデイングデイに行ってみました。

b0000924_1851147.jpg
旅する詩集たちを背景に朗読する知人の黒川照太さん

2日間かけて作ったという手作りの詩集を、途中絵を見せながら朗読したり、苺やバナナやりんごの果物を交えて朗読したり、聴いている私たちも楽しかったですが、ご本人の黒川さんが一番楽しんでいらしたようでした。

このイベントには私の詩集『あ、』も参加させていただきました。一番遠くから参加した詩集は北海道からだそうです。
b0000924_18515036.jpg

アバッキオは10人も入ればいっぱいになるほど小さな古書店です。でも、店主のあたたかい人柄のせいか、とても居心地の良い場所でした。
b0000924_18524280.jpg

b0000924_1853401.jpg
店主の黒川武彦さん

帰り際にリボンを通せば栞にもなる素敵なデザインのポストカードを、詩集参加のおみやげにいただきました(一番上の写真)。このおみやげ嬉しかったです。
[PR]

by hannah5 | 2014-03-05 18:55 | 詩のイベント | Comments(0)

Priceless   


b0000924_16561385.jpg

本日2冊目の個人詩誌Priceless を発行しました。


ただ今委託販売を検討中です。
決まりましたらお知らせします。

b0000924_1701823.jpg
[PR]

by hannah5 | 2014-03-01 17:01 | 投稿・同人誌など | Comments(0)