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日本の詩を読む IX ~ 詩的アヴァンギャルドの100年(第3回)   


「日本の詩を読む~詩的アヴァンギャルドの100年」の3回目は「新傾向の渦(大正末期から昭和初期にかけて)」と題し、日本のダダイストの詩を中心に講義が行われました(12/21)。(2回目の講義は欠席しました。)1914年、ヨーロッパを中心に第一次世界大戦が勃発、機関銃や大砲、戦車などの大量殺戮兵器が登場し、一般市民も戦争に巻き込まれるなど、それまでの戦争とはまったく異なる戦争が繰り広げられようになります。自由や人権、民主主義が崩壊し、意味や意味から成り立っている価値観を認めないダダイズムが登場、ツァラによって始まったダダイズム(チューリッヒ・ダダ)はやがて日本の詩人にも影響を与えるようになりました。教室で読んだ詩は日本のダダイストの代表である高橋新吉の「料理人」、「皿」、「食堂」、萩原恭次郎の「日比谷」、ダダイズムと同時期に現れたエスプリ・ヌーボー(新しい精神)に影響された竹中郁の「ラグビイ」、そして野村喜和夫さんの実作「暴行病棟」です。それにしても驚かされるのは、今から100年も前にすでに現代詩が現れていたことで、現代にある詩はすでに出尽くしている感じがします。(引用した詩は高橋新吉の詩です。)



料理人


料理人の指がぶら下つてゐる
茶碗拭きの鼻が垂れ下つてゐる
   残飯生活は皿なし
      葱の匂ひ
     庖丁の嫉視
          燻るものは
             くすぶれ






皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿
  倦怠
   額に蚯蚓這ふ情熱
 白米色のエプロンで
 皿を拭くな
鼻の巣の黒い女
  其処にも諧謔が燻つてゐる
   人生を水に溶かせ
   冷めたシチユーの鍋に
  退屈が浮く
   皿を割れ
   皿を割れば
  倦怠の響が出る。



食堂


食堂に桜の花が咲いた
   酢鮹
 瓦斯の焔が食べたい。
   頬ペタ卵の殻が喰付いてゐた
                      銀座
 泥酔者の胃袋を女猫が恋しがつて
   撥ねくり返つてゐる残飯桶に
    黄疸色の神が 跼むでゐる
   雨が降る
   オドの匂ひから遠ざかりたい
   夢に耽る胃拡張患者
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by hannah5 | 2015-12-30 06:05 | 詩のイベント | Comments(0)

Merry Christmas   


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The Adoration of the Shepherds painted by Barrolome Esteban Murillo


平安に満ちたクリスマスになりますように


きょうダビデの町で、あなたがたのために、
救い主がお生まれになりました。
                                       ルカの福音書2章11節
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by hannah5 | 2015-12-25 23:59 | イエス・キリスト | Comments(2)

野村喜和夫さん×谷川俊太郎さん トークショー&朗読会   


石原吉郎生誕百年を記念して、野村喜和夫さんの新著『証言と抒情』が11月に白水社より刊行されました。ちょうど白水社が創立百周年を迎えるということで、記念イベントとして12月9日、八重洲ブックセンターで野村さんと谷川俊太郎さんのトークショーと朗読会が行われました。谷川俊太郎さんは「石原の投稿詩を最初に評価し、詩壇にデビューするきっかけを作った」方です(記念イベントのちらしより)。石原吉郎の詩はかつて学生運動が挫折した頃に盛んに読まれましたが、3.11以後ふたたび読まれるようになったようです。詩も詩に対する考え方も対照的な野村さんと谷川さんのトークショーはどんな展開になるのか楽しみにしていました。特に淑徳の詩の講座で聴いていた野村さんの詩論とは異なる角度で見ている谷川さんの石原詩の評価は、私にとっては新鮮な発見であり、かなり参考になりました。朗読は野村さんが「耳鳴りの歌」と野村さんの自作の詩「LAST DATE付近」(1月号の現代詩手帖に掲載予定)を、谷川さんが「「レストランの片隅で」、「涙」、「死」、「死霊」、「理由」、「無題」を読まれました。トークショーと朗読の後はサイン会があり、希望者は野村さんの『証言と抒情』、谷川さんの新著『あたしとあなた』と『詩に就いて』(どちらか)にサインしていただいて、会は終了しました。(写真撮影禁止だったため、二人の対談の写真はありません。)


野村喜和夫さん著『証言と抒情』
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谷川俊太郎さん詩集『詩に就いて』
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by hannah5 | 2015-12-18 17:48 | 詩のイベント | Comments(0)

譚詩舎文学サロン~新しい詩への夢―立原道造・「風立ちぬ」からの旅立ち~   


毎年恒例の譚詩舎による立原道造関連の催しが12月5日(土)東京芸術劇場で行われました。今回のプログラムは立原道造が堀辰夫の「風立ちぬ」に決別した部分に焦点を当て、立原道造の研究者名木橋忠大さんの講演と、吉田文憲さん、野村喜和夫さん、名木橋さんの3人による座談会、渡辺文子さによる詩の朗読でした。今回私にとって特に新しい発見はありませんでしたが、名木橋さんが道造の年譜に沿い、その月/年に発表された作品を基に、道造が傾倒していた堀辰夫の「風立ちぬ」からどこへ出発しようとしていたのか、それにもかかわらず最終的にはどこへも行かず安定した場所に落ち着こうとしたのはなぜなのかについて、詳細な解説をされたのが大変印象的でした。名木橋さんの講演を聴いていて思ったのは、昔立原道造に心酔して道造の詩をノートに書き写していた頃の自分の読み方は偏っていて、浅かったということでした。座談会は吉田さんと野村さんと名木橋さんがそれぞれの見解をぶつけ合い、それらが交錯したり同一歩調を取ったりして、こちらも楽しく拝聴しました。最後は渡辺文子さんの朗読によってプログラムは締めくくられました。渡辺さんの朗読はすばらしかったですが、道造の詩は黙読した方がよいのではないか―道造の詩に深い思いを寄せた者として、朗読がすばらしければすばらしいほどどこかに違和感を感じていたことも否めませんでした。


【プログラム】

新しい詩への夢―立原道造・「風立ちぬ」からの旅立ち

1. 挨拶     布川鴇
2. 講演     名木橋忠大(中央大学特任教授)
3. 座談会    吉田文憲、野村喜和夫、名木橋忠大

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左から吉田文憲さん、野村喜和夫さん、名木橋忠大さん

4. 詩の朗読  渡辺文子
    「夢みたものは・・・・・」
    「小譚詩」
    「この闇のなかで」
    「唄」
(敬称略)

【出演者プロフィール】
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by hannah5 | 2015-12-11 21:50 | 詩のイベント | Comments(0)

「言葉の旅・詩の岸部へ」-石田瑞穂×佐峰存×岡本啓   


少し前になりますが、石田瑞穂さんと佐峰存さん、岡本啓さんによるトークと朗読の会がありました(11/27、場所は本屋B&B)。これは石田瑞穂さんの詩集 『耳の笹舟』 と佐峰存さんの詩集 『対岸へと』 の刊行を記念して行われたもので、岡本啓さんはゲストとして招かれました。

3人は今旬の若手の詩人たちです。そして3人ともアメリカ滞在/在住という共通した経験をもっているので、このイベントはとても楽しみにしていました。トークは石田さんが進行役を務め、2人から話を引き出すものでしたが、比率からいくと、岡本さんの話が少なめだったのがちょっと残念でしたが、3人の話はユニークで面白かったです。欲を言えば、海外滞在/在住による内側の変化や異文化と自分との齟齬、異文化の中での、あるいは日本に帰ってきてからの行き場のなさやそれらによる言葉の変化などがもう少し聞きたかったと思いました。

朗読された詩はお互いに好きな詩を選び合うというもので、石田瑞穂さんは「雪風」(岡本さん選択)、佐峰さんは「指に念じる」(石田さん選択)、岡本さんは「ペットボトル」(佐峰さん選択)を朗読しました。ここでは石田瑞穂さんの「雪風」を引用させていただきます。


雪風

   石田瑞穂


目をつむるみたいに
耳もつむれればいいのに

最初は雪のせいかと思った
あたりが急にしんとしだして

冬鳥 銀狐のトロット 明けの星の瞬き
物音がまったくとどかなくなった

窓の外 夢幻の園から舞い降りる
小鳥の和毛のような雪の純白が

世界中の音という音を吸い取ってしまったのか
そう錯聴した

静か というのとも成り立ちがちがう
耳のなかがどこまでいってもまっ白で

耳朶を両手でおおっても
白さの度合いはますます濃くなってゆく

裸麦の海面をざわめかせ
コガラたちの弾丸が飛び立っても

グレイッシュな世界のなかで
鉄と水と音だけが凍りついていた

新聞と詩のなかでは株価のそよ風次第で
子どもたちが住む家をなくし爆弾が落されるのに
そうか 言葉は魂だけじゃなく
耳まで傷つけていたのか

こころをつむるように
耳も莟をつむるのか

ながい夜汽車の旅もおわりかけた
朝焼けの午前五時だというのに

前の席では東南アジア系のふたりの若い僧侶が
ささやくように手話をかわしている

それは 聴いたこともない響き
草や花や星が空へたちふるえているような

さらさらした途切れのないふしぎな言語
皮膚のしたの国境線から吹雪いてきた

どこにもない国語
水に消える水に 形を変えた 雪風

              (詩集 『耳の笹舟』 より)



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佐峰存さん(左)、石田瑞穂さん(右)



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岡本啓さん

【出演者プロフィール】
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by hannah5 | 2015-12-04 23:19 | 詩のイベント | Comments(0)