野村喜和夫現代詩講座「日本の詩を読む/世界の詩を読むI ~ 現代詩と古典」 第1回「大岡信」   


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野村喜和夫さんが講義される現代詩の講座「日本の詩を読む/世界の詩を読む」が今月から始まりました。これは3月まで淑徳大学池袋サテライトキャンパスで行われていた「日本の詩を読む」の続きですが、淑徳大学サテライトキャンパスが閉鎖されたため、今月開設されたエルスールカフェ(エルスール記念館/野村喜和夫記念館内)に場所を移してスタートしたものです。そして、今回から日本の詩だけでなく世界の詩も読むことになりました。

初回とあって淑徳大学で講義を受けていた受講生だけでなく、野村さんが新宿と横浜の朝日カルチャーセンターで講義をされている教室の受講生も参加して、総勢15名のクラスとなりました。淑徳大学の時は多くてもせいぜい8名くらいだったのですが、15名ともなるとさすがに大きく感じます。意見や質問などで活気溢れるクラスになりました。

今回のシリーズは7月までで、毎月第4日曜日の午後3時から5時まで講義が行われます。1回目の昨日は先日86歳で亡くなった大岡信さんが取り上げられました。読んだ作品は「地名論」、「さわる」、「水底吹笛」でした。他に、野村さんが毎日新聞に寄稿された追悼文「理論と実践 現代詩支え 大岡信さんを悼む」も配布されました。

講義の後は7名ほどで中国人がやっている中華料理屋へ繰り出し、そこでも文学論、詩論、意見、質問等々で盛り上がりました。料理はどれもとてもおいしくて、私は少しだけ紹興酒をいただきましたが、皮蛋とよく合ったし、料理の話でも盛り上がりました。次回の講義は5月14日の予定です(5月だけ第2日曜になります)。




地名論


水道管はうたえよ
御茶の水は流れて
鵠沼に溜り
荻窪に落ち
奥入瀬で輝け
サッポロ
バルバライソ
トンプクトゥーは
耳の中で
雨垂れのように延びつづけよ
奇態にも懐かしい名前をもった
すべての土地の精霊よ
時間の列柱となって
おれを包んでくれ
おお 見知らぬ土地を限りなく
数えあげることは
どうして人をこのように
音楽の房でいっぱいにするのか
燃えあがるカーテンの上で
煙が風に
形をあたえるように
名前は土地に
波動をあたえる
土地の名前はたぶん
光でできている
外国なまりがベニスといえば
しらみの混ったベッドの下で
暗い水が囁くだけだが
おお ヴェネーツィア
故郷を離れた赤毛の娘が
叫べば みよ
広場の石に光が溢れ
風は鳩を受胎する
おお
それみよ
瀬田の唐橋
雪駄のからかさ
東京は
いつも
曇り



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# by hannah5 | 2017-04-25 00:04 | 詩のイベント | Comments(0)

訃報   


また一人偉大な詩人が逝った。
私の好きな詩人の一人でした。


大岡信さん死去


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# by hannah5 | 2017-04-06 20:29 | ご挨拶 | Comments(0)

詩と思想4月号   



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昨年10月15日に開催された詩と思想のシンポジウム「歴代編集長が語る戦後詩の継承と発展」の模様が詩と思想4月号に掲載されています。歴代の編集長の思いと意気込みを知ったシンポジウムでしたが、最後の質疑応答でちょっとだけ質問した私の質問も掲載されました。4月号には私の作品は掲載されていませんが、高良留美子さんに即答をいただいてちょっと嬉しかったので、ここに書かせていただきました。4月号はその他にも詩と思想新人賞を受賞された及川俊哉さんのインタビューや伊藤浩子さんと野村喜和夫さんとの往復書簡など、盛り沢山の内容になっています。

詩と思想4月号
発行 土曜美術社出版販売
定価 1300円+税



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# by hannah5 | 2017-04-04 05:32 | 投稿・同人誌など | Comments(0)

日本の詩を読むXI ~ 緊急的戦後詩再読提言(第5回)   


「戦後詩を読む」の第5回目は石原吉郎と吉岡実の予定でしたが、二人については過去に何回か講義したことがあるため今回は講義をせず、6回目に講義をする予定だった吉本隆明について学びました。(2/6/2017)

偶然というか面白いことに教室の参加者たちの中で吉本隆明に心酔していた、あるいは興味があったという人は一人しかおらず、吉本隆明をほとんど読んでこなかったとか、吉本隆明は避けてきたとかいう人ばかりで、どうやら吉本ファンは私たちより上の年代の人たちに多くて、その人達から吉本隆明を知ってかじったという人が多かったようです。かく言う私も詩を書くまでは吉本隆明とはまったくの無縁で、名前を知ってからもほとんど興味をもったことはありませんでした。というわけで、教室では吉本隆明については初心者として講義を聴きました。吉本の詩は今の時代の中では古い感じがしますが、ふと思ったのは、この不確実な時代にあってもしかしたら今こそ読んでみる価値があるかもしれないということです。大井浩一著 『批評の熱度 体験的吉本隆明論』、『吉本隆明前著作集』、詩集 『固有時との対話』、『転位のための十篇』、『記号の森の伝説歌』などの著作が教室で紹介されました。読んだ詩は「恋唄」、「固有時との対話」(最初の詩のみ)、「ちひさな群への挨拶」、「異教の世界へおりてゆく」でした。



異教の世界へおりてゆく

        吉本隆明


異教の世界へおりてゆく かれは名残り
をしげである
のこされた世界の少女と
ささいな生活の秘密をわかちあはなかつたこと
なほ欲望のひとかけらが
ゆたかなパンの香りや 他人の
へりくだつた敬礼
にかはるときの快感をしらなかつたことに

けれど
その世界と世界との袂れは
簡単だつた くらい魂が焼けただれた
首都の瓦礫のうへで支配者にむかつて
いやいやをし
ぼろぼろな戦災少年が
すばやくかれの財布をかすめとつて逃げた
そのときかれの世界もかすめとられたのである

無関係にうちたてられたビルデイングと
ビルデイングのあひだ
をあみめのやうにわたる風も たのしげな
群衆 そのなかのあかるい少女
も かれの
こころを掻き鳴らすことはできない
生きた肉体 ふりそそぐやうな愛撫
もかれの魂を決定することができない
生きる理由をなくしたとき
生き 死にちかく
死ぬ理由をもとめてえられない
かれのこころは
いちはやく異教の世界へおりていつたが
かれの肉体は 十年
派手な群衆のなかを歩いたのである
秘事にかこまれて胸を
ながれるのはなしとげられないかもしれないゆめ
飢えてうらうちのない情事
消されてゆく愛
かれは紙のうへに書かれるものを耻ぢてのち
未来へ出で立つ




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# by hannah5 | 2017-02-10 19:41 | 詩のイベント | Comments(0)

詩に出会う(3)   


冬の朝

         平田詩織


(泣いているの?)

もうだれのことも信じない
強く放つ横顔は
うすくとがって、きれいだ
光に殴られたように放心して
いつまでもみとれていたいほどの

真新しい暦のうえに
目覚めて見る夢
ひとは生まれたばかりで
まだ立つこともままならないのに
手を取りあって踊ろうとする
足の下の暗い域から
いっせいに湧きあがる耳を濡らす
潰えた身体に降るいたわりの雨音

青白い冬の路上に伏しても
まなざしを引き剥がすことはできない
脱力するばかりの空を抱きとめる
つめたい腕に思いを残す
ここにある
やわらかな不在を信じてほしい
目の奥に宿るもののために踊る手足を

(2017年1月11日(水)朝日新聞夕刊「あるきだす言葉たち」に掲載)



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ひと言
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# by hannah5 | 2017-02-04 21:01 | 詩に出会う | Comments(0)

釈然としていた頃   


釈然としていた頃
      ――『新井豊美評論集』に寄せて 


今も、生きて語るその言葉に
務めて置いてきたものや
意識的に封印したものの
鋭く尖ったぎざぎざの鮮烈が
ふっつと熱くなる

熱は
いつもそうして
置き去りにしてきたような気がする
生(なま)の鼓動と
裸をさらし
恥部をさらしても なお
呼吸(いき)ることが
生きて進んでいくことの悦びだった

飽きることなく踊りつづけた
一人遊び
赤剝けの旋律がひたすら愛おしく
どこまでもするすると延びていくそれは
永遠の匂いがした

言葉が
忘れずに起き上がる
想起され
集められたり捨てられたりしたものが
私の前で自由に動いていたことが
今もそうあるように
そのように続いていくように


残された言葉はそのひとそのもので
病に冒されていなかった頃の
凛とした佇まいが蘇る
私たちが決して垣間見ることのできなかった
硬質な輝き
奥のそのまた奥底に埋(うず)められていたものが
初めて覗かれることを許している


(詩と思想 2016年11月号掲載)



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# by hannah5 | 2017-01-17 19:22 | 投稿・同人誌など