「日本の詩を読む/世界の詩を読む」第5期-「愛の詩の12ケ月」第1回   


野村喜和夫さんの現代詩講座の第
5期が始まりました(10/21開始)。今回は世界中の詩人の愛を詠った詩を中心に講義が進められます。ゲーテやボードレール、有名なもの、古典的なものを避け、20世紀以降の詩人に限定されています。また、期末には「私の愛の詩のコンピレーション、アルバム」として、受講生は自分の愛誦する愛の詩、自作の愛の詩などから朗読コンピレーションアルバムの課題を提出しなければなりません。これはちょっと楽しみです。



【愛の詩の12ケ月・講座予定】


1

1月 エミリー・ディキンソン、ポール・エリュアール

2月 清岡卓行、ポリス・パステルナーク

3月 黒田三郎、金子光晴


2

4月 北島、大岡信

5月 川田絢音、朝吹亮二

6月 安東次男、吉岡実


3

7月 ジュゼッペ・ウンガレッティ、川口晴美

8月 岡田隆彦、アンドレ・ブルトン

9月 ジョン・アッシュベリー、シャルル・ボードレール


4

10月 白石かずこ、T. S. エリオット

11月 イヴ・ボンヌフォワ、パウル・ツェラン

12月 オクタビオ・パス、草野心平



*****



盛り沢山の内容だったため、3月の黒田三郎と金子光晴は講義をする時間がなくなり、結局2月のポリス・パステルナークまででした。



(大地は一個のオレンジのように青い)


       ポール・エリュアール



大地はオレンジのように青い

間違いなものか 言葉に嘘はない

言葉はもう歌わせてはくれない

こんどは接吻が睦みあう番だ

狂人たちと愛

彼女 その盟約の口

すべての秘密すべての微笑

それもなんという寛容のころもだろう

彼女を全裸と思わせるほど。

雀蜂が緑に花ひらく


夜明けはうなじのまわりに

窓の首飾をかける

翼が葉を蔽う

きみにはあらゆる太陽の悦びが

地上のすべての太陽がある

きみの美しさの道筋に。


   (田中淳一訳)




あのひとはわたしに触れた・・・・・


       エミリー・ディキンスン



あのひとはわたしに触れた、それでわたしは生きて知る

あのように許された日を、

あのひとの胸に探ったことを――

それはわたしにとって無限の場所

そしてしいんと静まりかえっていた、恐ろしい海が

多くの小さな流れを休めるように。


そしていま、わたしは前とすっかり違っている、

まるで高貴な空気を吸ったように――

あるいは王冠に一寸さわったように――

あのように彷徨うていたわたしの足も――

わたしのジプシーのような顔も――いまは変貌している――

もっと優しい光栄に。


この港に、もしわたしが入れるならば、

エルサレムに来たリベカだって、

これほど恍惚とした顔にならないだろう――

社に驚きぬかずくペリシャ人だって

荘厳な太陽神に向って

このように烈しく打たれた面を上げることはないだろう。


   (安藤一郎訳)


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# by hannah5 | 2018-11-11 20:40 | 詩のイベント | Comments(0)

私の好きな詩・言葉(173)   


春の大曲線



きみの命の大きさは
0.1ミリから始まった。

見ようとしなければ見えない大きさ。だけど

暗闇にいたらはっきりとわかる光の筋。真っ

直ぐに揺れて、真っ直ぐにたどり着いたこの

地球の夜空から弾かれた。性別も顔もこれか

らの人生も知らされずに、理由もなく、抱き

止められるために、まだ発見されていない塵

や電子の波に紛れて。まだ見ぬパパとママだ

って何億光年も宇宙を旅した。

あなたが最初に出会った微笑みの呼び方

重さのしるし、

眩しさに理由は隠されていないから

些細なきっかけの糸を手繰り寄せたことだって

すでにあなたは忘れているし

目の前のあたたかな光を

迎え入れることで頭がいっぱいなんだもの

はじめましてぼくたち

はじめましてわたしたち

まだ発見されていない宇宙の塵と大気と

電子の波を

見つめて微笑む

両手で抱えあげて重さを知る

頬をくっつけて温度を体感する

名前をつける

あなたがこの絵から姿を消したあとでも

手掛かりが残るように

痕跡の何もないところから

また光が差すように

季節を忍ばせて

春には春の方角へ弓を張り

伸びやかな布が一本の糸でするりと解けていくように

奇跡、と喜ぶことができる幸せが続きますように

思い切り空気を吸って

ふかふかの夜の中でおやすみなさい

弾く光の波があなたの

夜明け前の鼓動に追いつく







そんなにたくさんの塩



 夏の海辺で、母は岩肌に寄り添う。小さく跳ねるしぶき

を浴びながら貝を取る。波が引くごとに、貝はきゅうと身

を引き締めて張り付き、かたくなな殻だけが母の手元に残

る。しつこい夏の暑さと戦いながら、それでも何個かの貝

を手にして家に帰り、熱い汁のなかにぽとんと落とした。

母は出汁をもったいなさろうに幾度もすすり、貝の実を残

さず食べた。

 次の日から、母の作る食卓の味が変わった。何かがどこ

かで塩がらくなっている。昆布の佃煮、魚の塩焼き、サラ

ダ・豆腐のお味噌汁。背後でこっそり手順を覗き見ても変

わったところは見当たらない。レタス・きゅうり・トマト

など、ざっくりと混ぜた野菜がボールのなかで波を待つ。

皺の多く寄った母の手が器用に箸を持ち、小皿に取り分け

る間に旅は始まる。味が変化するのだ。人生の終わりに、

母が出会ったもの。私たちの食卓に潮が満ちてくる。












ひと言
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# by hannah5 | 2018-09-04 21:25 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(0)

「日本の詩を読む/世界の詩を読む」第4期-「日本におけるランボー」第3回、第4回   


野村喜和夫さんが講義される「日本におけるランボー」の第
3回は「モダニズムと戦後のランボー受容」(7/22)、そして第4回は「私のランボー体験」でした(8/26)。3回目の講義では、戦後日本でランボーがどのように受容されていったか、ランボーの作品を翻訳した中原中也や小林秀雄に焦点を当て、その他ランボーを翻訳した人たちの訳の違いなどを比較しました。読んだ作品は西脇順三郎の評論「日光菩薩ランボー」、瀧口修造の「詩と実在」(部分)、粟津則雄訳のランボーの「コントCONTE」、清岡卓行の「最後のフーガ」、渋沢孝輔の「越冬賦」、鈴村和成訳のランボーの「酔いどれボート」(部分)でした。


4
回目の「私のランボー体験」では野村さんがどのようにランボーと関わってこられたかを中心に講義が進められました。「あらゆるテクストは先行するテクストの書き換えである」というジュリア・クリステヴァの言葉を引用し、野村さんの詩に反映されたランボーの詩を読みながら、最終講義は野村ワールドが炸裂した感じでした。(副題は「ランボーとのわがテクスト間交流―本歌取り? 換骨奪胎? 脱構築?」。)読んだ作品は「シャルルヴィル発歯痛」、「アダージェット、暗澹と」、「そこ、緑に蔽われた窪地」、「スペクタクルあるいは波」、「この世の果てあるいは希望」でした。



スペクタクルあるいは波

        野村喜和夫

   
   不眠の夜の海は、アメリーの乳房のよう。

        ――アルチュール・ランボー

   海にゐるのは、

   あれは人魚ではないのです。

   海にゐるのは、

   あれは、波ばかり。

        ――中原中也



わたくしの果ての世の月明かりの

液晶の海に

ちらちら

みえているのは

あれは人魚でも波でもなく

眠れない女たち


人のうち

どこまでもやわらかく

重たげな肉をうねらせ分泌にみち

眠れない

とりわけ眠れない女たち


おおたえまなく寝返りをうつ女たち眠れない眠れない

するとたとえようもなく

うなじの明るみ

針を刺すと

ぞろぞろと白い虫たちがあふれ出すような

その照り映え

その照り映え

その照り映え


捕獲の網を手に

誰だわたくしは

夏の日の少年でもあるまいし

ただこんなにも睾丸が

睾丸だけが

卵黄のように垂れた月をまねて重い


そのあいだにも

眠れない女たちのすさまじいパーティだパーティ


ひとりが

パンプスをはいたままベッドを飛び越え

蹴り上げる昼の鬱屈の隣で

べつのひとりが

ベッドをたてて

くるくるとまわしはじめる

ワルツもうどうしようもなくワルツその照り映えその照り映え


わたくしの果ての世の月明かりの

液晶の海に

ちらちら

みえているのはあれは人魚でも波でもなく

眠れない女たち


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# by hannah5 | 2018-08-29 21:25 | 詩のイベント | Comments(0)

詩と思想詩人集 2018   




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総勢400名の詩人が参加している『詩と思想詩人集2018』に「緑宴」という作品で参加しました。

一色真理さんから中村不二夫さんに編集長が交代されて初めての詩人集です。

毎回参加させていただいていますが、今年は仕事が忙しくなり、詩に向き合う時間が極端に少なくなり、作品としては満足のいくものではありませんでした。



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# by hannah5 | 2018-08-19 21:29 | 投稿・同人誌など | Comments(0)

モノクローム創刊号   



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一色真理さんが主催される「モノクローム」創刊号に「やわらかい下降線」という作品を掲載していただきました。

参加者は一色真理、藍川外内美、北川清仁、草野理恵子、小松正二郎、近藤頌、鹿又夏実、為平澪、根本正午、根本紫苑、野田順子、原田もも代、はんな、平井達也、松井ひろか、みやうちふみこ。(敬称略)

モノクロームでは月1回の合評会も行っています。

モノクローム・プロジェクトhttp://monopro.poetry.jp/index.php






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# by hannah5 | 2018-08-01 14:54 | 投稿・同人誌など | Comments(0)

野川朗読会9   


71日(日)野川朗読会が行われました(於成城ホール集会室)。9回目となる今回の野川朗読会のひとことテーマは「私の立ち入り禁止地区」で、参加者がそれぞれの立ち入り禁止地区を述べ、聴衆がそれに対して「そうか!」と相槌を打つというもの。立ち入り禁止地区は実際の場所であったり精神的なものであったり、それぞれが持つ立ち入り禁止地区を述べました。



【一部】

朗読 伊藤浩子、生野毅、渡辺めぐみ、北爪満喜、そらしといろ、杉本真維子

対談 長野まゆみx田野倉康一xそらしといろ


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杉本真維子さん



【二部】


朗読 長野まゆみ、田野倉康一、樋口良澄、相沢正一郎、野村喜和夫、一色真理、岡島弘子


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長野まゆみさん




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野村喜和夫さん




司会 一色真理

(敬称略)


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# by hannah5 | 2018-07-29 22:50 | 詩のイベント | Comments(0)