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長い詩   


とてつもなく長い長い詩を読んでいる
始まりは顕微鏡で見なければわからないほど小さく
どの季節に属していたのかも定かではない
偶然に偶然が重なって その詩を読み始めたのだけれど
読み始めた頃は 燃えつきの悪い墨みたいに発火するのに時間がかかった
なぜ時間がかかったかといえば
長い詩なんて退屈極まりないというのが今まで読んだ長い詩の印象だったし
詩人の無愛想な面立ちや密生している生活を見るたびに
詩を読むことが遠のきそうなくらい萎えてしまったからだ

優しい始まりではなかった

雨が降っている日は
長い長い詩は重くなってページを開けることさえできなかった
お天気のいい日は
かえって太陽がまぶしすぎたし
ページを開けると発火してしまいそうだったからやっぱり長い長い詩は読めなかった
それでも長い長い詩のことが気になって
深夜遅く家の中の音がすべて途絶え
わたしの影がひとつだけ灯りの下に残される頃
わたしは長い長い詩を取り出しては眺め ゆっくりとページをめくってみた

ある日
詩人のペンの先から不思議な音がこぼれ落ちるのを聴いた
水晶のように透き通った音 ざわざわとしていたまわりがしんと静かになった
わたしの心の中に透き通った水が流れ込み
初めて長い長い詩を読んでみようという気持になった

詩人は相変わらず無愛想な面立ちをしているし
複雑に絡み合った生活は透度が低くて見通せないし
長い長い詩を読んでいくためには
相当の体力と気力と覚悟(のようなもの)がいるだろうと思った
けれど、あの時聴いた水晶のように透き通った音 ざわざわしている中でそこだけ静かにし
 んとして 光っていた音がいつまでも耳の中から消えなかった

長い長い詩をゆっくりと読んでいる
たぶんこれからもずっと読んでいるだろうという気がしている

by hannah5 | 2009-02-23 23:00 | 作品(2009~)

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