しわもなくしらじらと広がって
2009年 10月 30日
からだの中に
● もう帰らなくちゃ
というアラームがついていて
一時間おきに鳴る
アラームが鳴るたびに 反射的に帰りたくなるわたしは
それが止め忘れたアラームの古い癖なのだと把握できなくて
何度も止めなければならない
アラームが鳴ると
からだじゅうの細胞がびくんびくんといっせいに反応して
まるでこれから本当の勝負だといわんばかりに行儀よく並び
敬礼!の姿勢になる
敬礼!のあとは
からだじゅうの細胞が一目散に駆けだそうとするから
オイ!と上から押さえるようにして細胞たちを制止する
細胞の一つが新発見でもしたように
あ、そうだね、と言う
間髪を入れずにいっせいに振動していく
あ、そうだね、
あ、そうだね、
あ、そうだね、
あ、そうだね、
あ、そうだね、
あ、そうだね、
あ、そうだね、
納得してくれたんだね、
すっかり安心しきってよそ見して歩いていると アラームがまた鳴る
● もう帰らなくちゃ
それで同じようにからだじゅうの細胞が反射的な反応をして
いっせいに並びはじめる
思いだしてみて、
時間がひろびとと広がっていて
制限もなければ引きずるものもなければ心配することもなければ
時間の調整をして細い時間のわずかな隙間を見つけて
薄く押しつぶした時間を無理やり押しこむ必要もなければ
たとえようもなくしらじらと広がっている時間に気兼ねして
もう帰らなくちゃ、
なんて思う必要もないんだから
きょうはしわがまっすぐ伸びているから
うしろを振り向かずに歩けるんだよ
● もう帰らなく・・・・・
言いかけた言葉を飲みこんで
あ・・・・・うん・・・・・
あ・・・・・うん・・・・・
あ・・・・・うん・・・・・
あ・・・・・うん・・・・・
あ・・・・・うん・・・・・
あ・・・・・うん・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・
*
細胞たちが不安げな面持ちで
手持ち無沙汰に揺れている
ようやく定位置に落ちつきはじめた細胞たちを眺めて
しらじらと広がっている時間を固定させる
(手元が少しぶれる)
(足元が少しぶれる)
さんざん圧縮して限界に達したところでさらに圧縮した時間と
呼吸を吸いあげるたびに幾度もつぶれそうになって
重石の下から押されたまま出なくなった声があって
それらがいつ何時しらじらと広がっている時間を剥ぎ取って
永久に消し去ってしまうかわからない
時間が不慣れに悠々と支配しはじめている
by hannah5 | 2009-10-30 18:01 | 作品(2009~)