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ひとときの余韻   


「今日は出れなかったけど そっちへ行ってもいいですか」
そう言って現れた彼は まっすぐな眼をしていた
懐かしそうに笑顔を向けながら 私達の隣に坐る
よほどお腹がすいていたのか
とんかつと山盛りのキャベツを交互にほおばる
それからごはんのかたまりを口いっぱいに放り込んで
じっと 私達の話に耳を傾けた

「馬は冬になると長い毛が生えてきて もこもこになるんです」
「じゃあ、テレビで見るサラブレッドは夏に撮ったものなの?」
「いえ、たぶん 温かい所で飼われていたから 毛が短いんだと思います
でも僕達の所へ来たら、やっぱりもこもこになっちゃうんです」
なんだか可笑しくなって 私は笑ってしまった

勉強とクラブ活動で忙しくて 長いこと欠席していた
けれど今夜は私達に会いたくなったのだという
嬉しくて 私達は次から次へとおしゃべりをした
満腹になっていく彼の顔がほんのりと桜色に染まる

「これからまたクラブに戻ります」
元気を取り戻した声が別れを告げ そのまま雑踏に消えて行った
それから私達もとりとめもないおしゃべりをしながら 電車に乗った

夜の街にほんのり余韻が流れた

by hannah5 | 2004-12-02 22:57 | 作品(2004-2008)

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