アデュー
2011年 09月 18日
それがどんな始まりだったか
取り出すことができないでいる
引き出しの奥の方に押し込んでしまったから
引き出しを引っ張ると一センチほど動き
あとはぷっつりと頑固に動こうとしない
元に戻してまた引いてみる
何かが中で引っかかっているらしく
けれど重苦しい面持ちが
ここで諦めるなどあり得ないとして
また引き出しをこじあけようとする
どんな始まりだったかは
たぶん
それほど重要ではなく
それより前を見つめて
時間の先の方へ思いの丈を投げてみる
もっとも伸びたところで放物線を描いて降りていく
細切れに千切った思い出の色とりどり
しんみりとした切なさに連れていかれそうになるのを
慌てて引き止める
素肌をさらした好意と思いやり
望まれなかったそれらがそれでも懸命に
息を繋いで先へ行こうとする
あの日
頭の中が真っ白になって
何時間も窓辺に立ち尽くした
考えようとしても考えは滑っていくばかりで
西を向いているのか東を向いているのか
北に上がるのか南に下がるのか
時間は正しく進んでいるようで
迷路に踏み込んだまま
ジグザグに前進と後退を繰り返した
何年も固めてきたものが一瞬のうちに液体になり
初めからあったはずのもの
いつまでも残るはずだったものが
ぬくもりだけを残して
いつのまにか姿を消していた
私の中の確かだった息遣いよ
手の中で握りしめることのできた始まりよ
折れた翼は
永遠に眠らせてしまえ
by hannah5 | 2011-09-18 22:54 | 作品(2009~)