フォルテピアニシモ vol.7 ~ wish ~
2011年 11月 03日
ひとはみな誰かの泉 いのち抱き露草の蒼踏みしめてゆく
今日は休日。久しぶりにゆっくり起きて、静かな朝の中で少しだけ自分を回復した日は、ふらりと流れるように街へ出るのがいいようです。
歌人伊津野重美さんの朗読ライブ「フォルテピアニシモ vol.7 ~ wish ~」に行ってきました(場所は吉祥寺のStar Pine’s Cafe)。魂を絞り出すようにして朗読する伊津野さんの姿に、聴いている一人一人が吸い込まれるようでした。背景に映し出される田中流さんの林や桜の写真が綺麗で、伊津野さんの寂しげだけれどどこかあたたかい雰囲気や、女性らしい繊細な雰囲気にも合っていて心地よいものでした。言葉が降り注ぐ中に座っていると、疲れた心も回復しますね。
心に沁みた作品がありました。それをここに置いておきます。
(この作品はまだ刊行されていないため、半分の掲載とさせていただきます。)
Rebirth
薄明るく冷たい闇を
ずっと彷徨い続けていた
去年とは違った時間が過ぎる
いつもと同じに巡って来る季節がいつもと同じではない
まさか年若い友を
こんなに早く亡くすとは思っていなかった
いや ほんとうは知っていた
互いに命が儚すぎることを
それなのに 私は
このまま死なせるわけにはゆかないと
ばらばらにこぼれた自分を拾い集め
かろうじてつなぎとめ
追悼集をつくる間も体が壊れ
追い討ちをかけるように
入稿直前に編集中のパソコンも壊れ
締め切りの今日は携帯電話まで壊れた
それでもぎりぎりに印刷所に駆け込み
やっと間に合った
もう 砕けてしまいそうだ
崩おれそうな体を引きずり
行きに横目で見て通った河岸に昇ってみる
すると 奇しくも一面の真っ赤な夕焼けで息をのむ
今日一日が終わる前に太陽が見せる慰藉の光
そう ほんとうは世界は美しい
けれども この一日も誰かが逝った日なのだ
愛おしむように悲しく赤い恩寵の陽が沈んでゆく
ふと その瞬間に逝った人を強く感じた
あなたが世界を満たし
私に溢れている
その時 私はようやく理解した
人は そして私は
大切な人を失っても悲しむ必要などないことを
私は ほんとうは何も失ってなどいないことを
死は終わりではなく
自分が生きているかぎり
その人も共に生き続けている
(以下省略)
(『生命の回廊』 vol. 3より)
*****
【プログラム】
I
◇
Grace 短歌
『紙ピアノ』より 短歌
ちいさな炎 詩
れいこ 詩
精霊流し 断章
◇
『笹井宏之作品集 えーえんとくちから』より 短歌 笹井宏之
Lament 短歌
II
◇ メドレー 写真 田中流
風のうた 詩 安永稔和
『一握の砂』 『悲しき玩具』より 短歌 石川啄木
雨ニモ負ケズ 詩 宮沢賢治
のちのおもひに 詩 立原道造
樹下の二人 詩 高村光太郎
風景 詩 山村暮鳥
『天の猟犬』より 詩 末森英機
花がふってくると思う 詩 八木重吉
◇
桜 楽曲 笹井宏之
Rebirth 詩
ねがい 詩
落鳥の地から 短歌
b>伊津野 重美(いつの えみ)
1995年より作歌を、2000年より朗読の活動を始める
2005年に第一歌集『紙ピアノ』(写真/岡田敦)を風媒社より刊行
2010年に写真集『ataraxia』(岡田敦・伊津野重美)を青玄社より刊行、詩誌『生命の回廊』発行・編集
2011年『笹井宏之作品集 えーえんとくちから』(PARCO出版)編集委員
2007年より朗読ライブシリーズ「フォルテピアニシモ」を開始する
(フォルテピアニシモのプログラムよりコピー抜粋)
伊津野重美さんのHP ぴあの
by hannah5 | 2011-11-03 21:01 | 詩のイベント