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日本の詩を読む XI 「金子光晴の詩の世界 その1」   


野村喜和夫さんの「日本の詩を読む」の講義が始まりました(教室は淑徳大学池袋サテライトキャンパス)。今回の講義は全部で5回、金子光晴の詩の世界を見ていきます。第1回目の講義が5月19日(月)に行われ、金子光晴の生い立ちや最初の渡欧などを中心に話が進められました。

前回の日本の詩を読むの講義の最後に、すでに金子光晴の詩を読むことが決まっていたので、今回までに金子光晴の作品に少し目を通しておこうと思ったのですが、3月頃から急激に本業が忙しくなってまったく本が読めない状態になり、そのようなわけで今回はぶっつけ本番、教室へ行って初めて金子光晴の作品にお目にかかるという状態でした。頭の中が仕事モードになっていて、詩へ切り替えるのにちょっと時間がかかりました。


金亀子

二十五歳

振子は二十五歳の時刻を刻む。

夫は若さと熱祷(いのり)の狂乱(ものぐるひ)の刻を刻む。
夫は碧天の依的兒(エーテル)の波動を乱打する。

夫は池水や青葦の間を輝き移動してゆく。
虹彩や夢の甘い擾乱が渉つてゆく。

鐘楼や、森が、時計台が、油画の如く現れてくる。

夫は二十五歳の万象風景の凱歌である。

  二

私の鏡には二十五歳の顔容が陥没してゐる。
二十五歳の哄笑(たかわらひ)や、歓喜や、情熱が反映してゐる。

二十五歳の双頬は朱粉に熾えてゐる。
二十五歳の眸子は月石の如く潤んでゐる。

ああ、二十五歳の椚林(くぬぎばやし)や、荊棘墻(いばらがき)や、圓屋根(ドーム)や、電柱は其背後を推移してゆく。
二十五歳の微風や 十姉妹の管弦楽が続いてゐる。


空気も、薔薇色の雲も、
あの深𨗉な場所にある見えざる天界も二十五歳である。

山巓は二十五歳の影をそんなに希望多く囲む。
海は私の前に新鮮な霧を引裂く。

二十五歳の糸雨は物憂く匂やかである。
二十五歳の色色の小鳥は煙つてゐる。

二十五歳の行楽は、寛やかな紫煙草の輪に環〔ま〕かれてゐる。
二十五歳の懶惰は金色に眠つてゐる。

  三

二十五歳の夢よ。二十五歳の夢よ。
どんなに高いだらう。
二十五歳の愛欲はどんなに求めるだらう。
二十五歳の皮膚はどんなに多く罪の軟膏を塗るであらう。


二十五歳の綺羅はどんなに華奢(はでやか)であらう。

二十五歳の好尚(このみ)はどんなに風流であらう。


*****



【金子光晴の詩の世界 講義予定】

第1回 5月19日
       生い立ち、最初の渡欧、関東大震災
        『こがね蟲』 『水の流浪』
第2回 6月2日
       森美千代との出会い、世界放浪、戦争の足音
       『鮫』 『マレー蘭印紀行』
第3回 6月16日
       戦時下での抵抗、終戦
       『女たちへのエレジー』 『蛾』
第4回 6月30日
       抵抗詩人としての名声、大川内玲子の登場
       『人間の悲劇』 『愛情69』
第5回 7月14日
       自伝作者、風狂老人
       『ねむれ巴里』

by hannah5 | 2014-05-22 19:40 | 詩のイベント

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