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夏の午後   


長い長い坂道を
ゆっくりと下りていくように
あなたの記憶がゆっくりと後退する

私はその都度立ち止まっては
途方に暮れてあなたを見る
あなたはまるでなんでもなかったかのように
にっこりと笑う

会話が途切れてしまった

あなたがまだ元気だったころ
夕方になるといつも
しゃきしゃきと歩いて買い物に行っていたことが
かすんで見えないほど
遠くになった

思い出したように
あなたは話しかける

  ねえ、冷蔵庫の中に
  おいもの煮たのがあったでしょう?

立つこともできなくなってしまったあなたが
記憶の中では
今でも台所で煮物をしている

ぼんやりとかすんだ過去にいて
昨日と今日の境目がぼやけた今日にいる

またひとつこぼれた積み木を
あなたは拾うのも忘れて
しづかに
しづかに
眠ってしまった

by hannah5 | 2005-08-11 22:28 | 作品(2004-2008)

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