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街の風景   


夕闇が街を包み始める頃
私は仕事を終えて街へ出る
静かな住宅街を抜けると
目の前が急に開けて
遠くに富士山が見える

富士山を見ながら鉄橋を渡り
階段をゆるゆる下りて行くと
突き当たりになり
川が流れている
その川に沿って駅まで歩く
急いでいる時は
鉄橋から駅まで一気に歩く
大抵は川辺のフェンスの植物を眺めたり
木の上で騒ぐカラスをからかったり
散歩中の犬の頭をなでたりしながら
ゆっくり歩く

春になると
川辺の桜が満開になる
近所の人たちは酒やごちそうを持ち寄り
椅子を並べて酒盛りをする
公道だがほとんど人の通らないその道は
花見の庭に早替わりし
何も始まらないうちから
あたりはほんのりさくら色にほろ酔い加減だ

梅雨の頃
青や紫やピンクの大きな紫陽花が
雨露にしっとりと咲く
誰に見られるともなくひっそりと咲く紫陽花は
いつも私に秘密の喜びをくれる
アメリカにも紫陽花はあったが
雨の中でにおいたつように咲く紫陽花は
この国だけだ

夏はあたり一面
みんみん蝉がかしましい
木という木に
みーん みーん
が へばりついている
みーん みーんは
夜になっても止まない
熱い空気が沈殿して地中から響いてくる

秋には野菊が我も我もと
フェンス越しにかわいい顔を覗かせる
私はそれを二、三本折って持ち帰り
「ほら」
と母の鼻に押しつけたら
母は目を細めて喜んだ

季節ごとに変わる街を歩きながら
川辺のフェンスに
木々の枝に
坂の途中の叢に
思いと祈りを一つづつ埋めてきた

いつか祈りがかなえられ
思いがかなったら
それらを埋めた街の風景を
きっと一つづつ思い出すだろう

by hannah5 | 2006-03-08 00:19 | 作品(2004-2008)

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