ハンドクリーム
2007年 01月 29日
小さな引き出しの中に
丁寧に集められた
まだ蓋をあけたことのない化粧品 数種
買い置きのハンドクリームが
奥の方で静かに眠る
隣の引き出しには
見本でもらった
瓶やプラスチックの容器がいくつか
布切れが数枚
重ねて畳まれたまま
いつかどこかの子どもにあげようと思って
集めた小さな色紙何枚か
ハンドクリームの蓋をあけると
使いかけのまま
何年も放ってあったから
クリームが固くなっていた
つつましい生活の中で
引き出しの中にしまっておいた
父のためではなく
ましてや誰かのためではなく
小さく並べておいた
引き出しの中の
あなたがあなたに染まるための
薄紅の時間
誰にも知られずに
誰かをそっと想うための
密かな哀しみ
病に倒れる前のあなたは
たしかにそこにいて
揺蕩うように微笑んでいた
溶けてゆく頭の片隅で
それらがかすかな残像となって
佇んでいる
囁くように
あなたがあなたを掬っていた日々は
もうどこにも告げることはなく
※あなた = 母
※薄紅 = うすくれない
揺蕩うように = たゆたうように
by hannah5 | 2007-01-29 23:53 | 作品(2004-2008)