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ある瞬間(とき)   


黒く日焼けした顔が一瞬 立ち止まった

  ハイ、ゴメンナサイヨ

澱みながら通り過ぎていったあとを
スパイスウッドのパルファムが
後ずさりしながら追いかけていく
鼻腔に侵入した匂いが 一瞬
奥で回転しながら そのまま消えていった

わたしは追いかけたくなる衝動を抑えて座っていた

一日が疲労を重ねながら終わりに向かう前の
余力が残っている時間に
ほんの少しだけ開いた隙間から流れ込んだひと切れの瞬間
額に深く刻まれた皺が逃げ遅れて貼りついている

薄いベージュ色の空気が
まるで何事もなかったかのように
大人しく背後に広がっている
たぶん これからも何事もないまま広がっているのだろう


異次元の空間というのがあるらしい
日常のふとしたきっかけに
突然 見知らぬ世界にスリップインして
今までとはまったく違う風景の中にいる
今のこの瞬間を際立たせているものは
異次元の空間にちがいない

遠慮しているせいか
あるいは無関係に徹していたいせいか
わたしの神経をおし開いてくれるような人には
めったに出会わなくなった


感情が波立ち
小さなしぶきをあげている
そのまま感覚を泡立たせ
融合と結合を繰り返し
ピストンのように交換作業が往復した


あらゆる感覚と感情が眠っている 今


次に目覚めるのはいつ?


(1/15 推敲訂正)

by hannah5 | 2008-01-14 23:51 | 作品(2004-2008)

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