2005年 02月 06日 ( 1 )   

私の好きな詩・言葉(27) 「頑是ない歌」   

中原中也の詩には悲しく苦しい詩が多い。早熟だった中也は早くから詩作を始めた。しかし、その生活は無頼、喧騒、交遊と絶交、徒労の女との愛、反逆、幻滅、酩酊、奇妙な傲慢と卑屈といった言葉で表すことができる。孤独と哀しみが中也の詩を甘美に浮かび上がらせる。

中也の詩は長い苦しみを通貨したあと、ある時、いくばくかの安らぎを見せるようになる。「頑是ない歌」は家庭をもち、通り過ぎてきた過去を幾分自嘲的に振り返っている。人生の悲哀ーそんなところに共感した。


頑是ない歌


思へば遠くへ来たもんだ
十二の冬のあの夕べ
港の空に鳴り響いた
汽笛の湯気は今いづこ

雲の間に月はゐて
それな汽笛を耳にすると
竦然(しょうぜん)として身をすくめ
月はその時空にゐた

それから何年経つことか
汽笛の湯気を茫然と
眼で追ひかなしくなつてゐた
あの頃の俺はいまいづこ

今では女房子供持ち
思へば遠くへ来たもんだ
此の先まだまだ何時までか
生きてゆくのであらうけど

生きてゆくのであらうけど
遠く経て来た日や夜の
あんまりこんなにこひしゆては
なんだか自信が持てないよ

さりとて生きてゆく限り
結局我ン(ママ)張る僕の性質(さが)
と思へばなんだか我ながら
いたはしいよなものですよ

考へてみればそれはまあ
結局我ン張るのだとして
昔恋しい時もあり そして
どうにかやつてはゆくのでせう

考へてみれば簡単だ
畢竟(ひっきょう)意志の問題だ
なんとかやるより仕方もない
やりさへすればよいのだと

思ふけれどもそれもそれ
十二の冬のあの夕べ
港の空に鳴り響いた
汽笛の湯気や今いづこ


(中原中也集『在りし日の歌』より)

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by hannah5 | 2005-02-06 20:38 | 私の好きな詩・言葉 | Comments(13)